昇平てくてく日記3

中学校編

昇平3行日記・10

※全然3行で収まっていない3行日記。

11月29日(月)
 朝起きたときから、嫌なことが次々頭に浮かんでくる、と言って非常に不調。抗鬱剤を頓服させてやっと動き出せたが、それでも調子は悪そうだった。15分遅れで自転車で登校。途中で休みながら登校したのか、学校に着くのが遅くて、心配した担任から電話がかかってきたが、なんとか8時10分頃に学校に到着したらしい。
 避難所については、担任と昇平で話し合って、図書室を第一避難所、教室と同じ階の学年資料室を第二避難所にすることに決まった。図書室ならば、絶対にL子さんの声は聞こえてこない。やっとこれで本当に安心して“避難”できるね。
 登校しても昇平は不調だったので、1校時目は図書室で静かに過ごし、2校時目から授業に参加。数学、体育と出たが、体育のバドミントンで疲れてしまって、4校時目の社会はできなかったらしい。連絡帳の一行日記には「眠い」と書いてあったし、家にも、へとへとになって帰ってきた。それでも「がんばって学校に行ってきたよ」と報告する昇平は、本当に健気だ。
 午後も不調は続いて、しょっちゅう嫌なことが浮かんでくるようだったが、夜、抗鬱剤を飲んだあたりから少し元気になって、楽しそうにゲームをする姿が見られた。
 私は日中、義母の送迎で福島市まで二度往復。私自身もあまり調子は良くないので、夜にはくたくた。昇平より先に、9時半頃寝てしまった。旦那は10時45分頃帰宅したらしい。旦那も一日とても忙しかったようだ。

−−−−−−−−−−−−−−−

11月30日(火)
 やはり、朝起きると嫌なことが頭に浮かんでくる昇平。「ああ、どうしよう、どうしよう。助けて!」と訴え、頭を抱えてうずくまる。抗鬱剤を飲ませると、やっと嫌な考えから少し脱出できて、動けるようになった。
 昨日と同様、15分遅れで、なんとか登校。
 今日も三者面談期間で昼過ぎには下校になるので、病院へ行って、抗鬱剤を一日二回にしてもらえるようお願いしてこよう。

−−−−−−−−−−−−−−−

11月30日・続き
 昼直前に昇平から長電話がかかってきた。またトラブルが起きたから、お母さんとにかく学校に来てちょうだい、と言う。そばに担任もいたので、交互に話を聞いたところ、4校時目に昇平とL子さんで図書室にパソコン学習に行ったが、担任が用事で職員室に戻った5、6分の間に、「パソコンが起動しない!」とL子さんが騒ぎだし、その声で昇平がまたパニックになって大騒ぎになったのだとわかった。
 先生ではL子さんから事情を聞けないし、説得もできないから、お母さんが学校に来てL子さんに話をしてくれ、というのが昇平の主張だった。これだけのやりとりをするのに、かなり長い時間がかかったけれど、「L子さんと話すのは先生の役目であって、お母さんが行くのは筋違い。お母さんにはそこまでの権利はないんだよ」と話して聞かせると、「そうですか」とやっとあきらめてくれた。結局それで4校時目はすべてつぶれ、昇平は別室でひとりで給食を食べ、L子さんとは接触せずに下校してきた。
 帰宅してきた昇平は、「L子さんと絶交しようかと思ったけれど、やっぱりやめようかな」と言っていた。担任からの連絡帳にも、L子さんが明日昇平に謝りたいと言っていた、ということが書かれていた。まあ、仲直りはできるだろうけれど。
 今のように、昇平が非常に不安定で、二人一緒にいるだけで一触即発の状態の時に、いくら介助の先生がいたからと言って、子どもたちだけにしておくのはまずかったと思う。避難所のはずの図書室が、避難所にならなかったわけだし。本当に、どうしたものやら。

 その後、病院へ。昇平は自分の状態を自分のことばで話し、私もそれを補い、さらに土曜日や今日の騒ぎも話し、相談の結果、しばらく朝に安定剤を服用することになった。リスペリドン0.5ml。本当は1mlが適量らしいのだが、以前それを飲んで眠くて何もできない、と昇平が訴えたので、とりあえず半量にして様子見。効かないときには1mlにするように、と指示された。
 病院へ着くまでは、不安から嫌なことを次々思い出していた昇平だったけれど、終わった後はホッとしたのか、寝るまで調子は良かった。
 病院に午後いっぱいかかってしまったので、今日も私は疲労。夜9時半にならないうちに寝てしまった。つられたのか、昇平も就寝が早かった。

−−−−−−−−−−−−−−−
 
12月1日(水)
 昇平は今朝も調子が悪かった。嫌なことが次々浮かんでくるので、リスペリドン0.5mlを服用。やっと朝の支度をするが、朝食中にもやはり嫌な記憶がフラッシュバックしてきて、玄関先で動けなくなったので、さらにリスペリドン0.5mlを追加して、少し落ち着いたところで私の車で送った。しんどくても学校へ行く君は、本当に偉いよね……。
 学校でも調子が悪くて、1校時目は図書室で休み、2、3校時目は授業に参加。4校時目は好きな英語だったけれど、また調子が悪くて、英単語の練習が少しできただけだったらしい。「薬のせいか、一日眠そうでした」と連絡帳に書かれていたけれど、本人の精神状態が悪かったせいと、精神的に疲れているせいのほうが大きいような気がする。
 帰宅してからも昇平は疲れていて、家庭学習の途中で昼寝を始め、夕方ベッドで本格的に一眠りして、ようやく元気になった。自主的に家庭学習を終わらせ、wii-fitのトレーニングも少ししてから、好きなパソコンやゲームを始めたが、やはりいつもの元気はない。そろそろ本人のがんばりも限界に来ているようだな……。夜にまた嫌なことを思いだして不安定になったが、10時過ぎには就寝した。
 私のほうも、やはり夜には疲れて、8時から10時まで一眠りした。おかげで今夜は旦那の帰りを待って、しっかり昇平の話をすることができた。朝には必ず話してきたけれど、出勤前だとあまり長くは話せないので。

−−−−−−−−−−−−−−−

12月2日(木)
 朝はやはり次々嫌なことが浮かんでくるようだけれど、全体的な印象としては、昨日よりはやや軽い感じ。リスペリドンも0.5mlだけで、自転車で学校へ行くことができた。
 学校では休みながら授業を受けていたようだ。まず図書室へ行き、1校時目の保健体育は最初出ただけであとは図書室で休み、2校時目の理科は理科室で受けたものの、内容もわからないので寝ていたと言う。3校時目は図書室で英語、4校時目は選択美術、5校時目は美術で、これには出られたらしい。
 帰宅後はくたくたになっていて、すぐまた昼寝をしてしまったが、30分くらいで起きてきて、その後は元気に過ごしていた。一日トラブルがなかったから、その分元気になってきたのかもしれない。

 私は昼過ぎまで親の会の支部例会。同じような特徴の子どもたちを持つ母親同士が集まって、子どもたちのための行事や勉強会の打ち合わせをしたり、それぞれ相談をしあったり。私も昇平の話を聞いてもらえて、だいぶすっきりした。話しても解決法や答えが見つかるわけではないのだけれど、同じような子育てをしている仲間がいると思うと、それだけで本当に元気が出てくる。

−−−−−−−−−−−−−−−

12月3日(金)
 今日は昇平は朝からいくらか調子が良かったようで、割とスムーズに起きてきて、テーブルに置いてあったリスペリドンを見て、「今日はこれはいらないよ」と言ってきた。「飲まなくても大丈夫そうなの?」と聞くと、「学校で落ち着かなくなったら、騒がないようにがんばるから大丈夫」と言う。その決意は偉いけれど、がんばっても無理なことは無理なんだよね……。「どうしてもつらかったら、無理に我慢しないで飲みなさいね」と、リスペリドン0.5mlを鞄に入れてやった。
 時々嫌なことを思いだして、朝食中にも「どうして人って気に入らない人をすぐ殺そうとするんだろう」「子どもって、どうしてすぐにひどいことばかり言うのかな」と言い出したけれど、比較的安定しているからか、すぐに自分なりの答えを導き出していた。「本当は殺すつもりがなくて、ただおどかしているだけなんだよね?」「子どもは弱いから、自分を強く見せようとして、強がって乱暴なことを言うんだよね?」確認をしてくるから、「その通りなんだよ」と同意を返すと、それで安心して、また食事を始めた。
 雨が強く降っていたので、学校までは車で送った。鞄を背負うのにも、家を出るのにも、いつも何倍も時間がかかってしまうけれど、急かさず、じっと待っていたら、とうとう自分自身の意志で車まで来た。学校の駐車場でも、1,2分じっと目をつぶってから、「行ってきます」と言って車を降り、窓越しに私にうなずいて見せてから、学校へ歩いていった。君は偉い。本当に偉い。母は心からそう思うよ。
 これまで、調子が良くなってきたな、と思うと学校でトラブルが起きて、そのたびにドンと落ち込んで逆戻りすることが繰り返されてきた。また同様のトラブルが起きたら、今度こそ昇平は学校に行かなくなる。私たちにももうそれをフォローできなくなる。
 トラブルが起きませんように。どうか起きませんように。祈りながら昇平を見送った。

−−−−−−−−−−−−−−−

12月3日・続き
 一日学校でトラブルは起きず、昇平はとても明るい顔で帰ってきた。連絡帳を見ると、1校時目から5校時目まで図書室で過ごし、授業も図書室で受けた、と書かれていた。ただ、本人に確かめると、給食は9組で、他の特支学級のお友だちと一緒に食べたらしい。もちろん、そこにはL子さんもいる。
 一日中、完全にL子さんを拒絶しているように見えて、学校は心配しているかもしれないけれど、「大丈夫ですよ」と私は言いたい。昇平は今、自分にとって本当に安全な場所が学校にあるのか、確認をしているところ。図書室を本当の避難所だと納得できたら、働きかけや授業によって、必ずまたL子さんと一緒の行動を始める。彼女が声を上げたり、上げそうになったりしたら、すぐまた図書室に避難しながら、少しずつ、彼女と折り合える場所へ出ていく。「同じ教室は無理だけれど、隣の多目的教室なら大丈夫だよ」とも、必ず言い出す。昇平はそういう子ども。安心できる場所さえ確保されていれば、ちゃんと自分からがんばり始めるのだから。
 焦らないで。見守って。L子さんだって、昇平と一緒に話したい、同じ教室にいたい、と思っているはず。この昇平の態度に、「昇平くんの前では大声を出してはまずいんだ」と本気で考えて、自分をコントロールし始めるかもしれない。今までの態度を責めるのではなく、これからの行動を促してあげて。二人とも、本当はとても仲良し。焦らなければ、いつか必ず、また一緒の教室で過ごせる時間も出てくるから。

 とても多くの方たちから、私たちを応援することばをいただいている。今日は、同じ町内に住む義姉も、ネットで日記を読んで、心配して飛んできてくれた。差し入れにリンゴケーキをいただいた。
 学校が終わって迎えに行った車の中で、「昇平くんは偉い! って○○くんも、△△さんも言っていたよ。よくがんばっているね、って××さんも言ってくれていたよ。おばさんも、応援にケーキを持ってきてくれたよ」と伝えたら、昇平は大真面目な顔で「偉いのはお母さんだよ。だって、ぼくが落ち着かなくなったときに、いつも必ず助けてくれるんだから。がんばっているのはお母さんのほうなんだよ」と言った。「そうだね、昇平くんもお母さんも、どっちもがんばっているから偉いよね」と言うと、さらに真剣な調子でまた「偉いのはお母さんのほうなんだよ。だって、ぼくにはお母さんがいてくれるんだから」と言う。
 ああ、こんなにもこの子は育ってきたんだ、と感動してしまった。先週の土曜日の大騒動は、昇平の心にしっかり傷を作ってしまったけれど、昇平自身がそれを「これまでの自分のことを反省するための、とても大切な経験になった」と言う。本当に偉いね。大人になってきたね。
 例の嫌な考えに対しても、今日はすぐに朝のような整理をして、落ち込みから抜け出せていた。帰宅してから昼寝することもなく、久しぶりでwii-fitのトレーニングもして、元気に過ごしていた。
 安心できる環境が確約されてきたからこそ、昇平は先に進めるようになってきた。まず、学校が安心できる場所になること。本当に、それが何より大切なことだったのだよね。
 来週も、トラブルなく、安心して過ごせる一週間になりますように。

−−−−−−−−−−−−−−−

12月4日(土)
 約束通り、旦那が休みを取ってくれた。実に2ヶ月半ぶりの公休。朝は昇平と二人で8時過ぎまで寝て、朝食を食べてから、また昼近くまで寝て、夕飯の後の今もまた一眠りしていた。旦那も疲れていたんだよね。ゆっくり休んでくれて、私もなんとなく安心。

 昼には三人で外出して、ファミレスで食事をしてから、昇平のリクエストでゲーセンへ行った。週末のせいか、ファミレスは子ども連れでいっぱい。最初はそれほどでもなかったけれど、やがて、あっちでもこっちでも小さな子どもたちが泣き出した。昇平は子どもの泣き声も本当に苦手なのだが、何も言わずに食事を続け、そのうち本格的にうるさくなってくると、じっと下を向いて我慢していた。ものすごく努力をして耐えていたので、早々にレストランを出たけれど、我々でさえ「うわぁ、うるさい!」と感じる賑やかさだったのだから、それを我慢できた昇平は、本当にすごいと思った。自分でも、そうやって耐えられたことが嬉しかったようで、「昔のぼくとはもう違うんだよ」と誇らしそうに言っていた。そう、昔は赤ちゃんや小さな子が泣くたびにパニックになっていたけれど、駐車場の車を避難所にしながら、少しずつ馴らして、こんなふうに耐えられるようになったんだよね。
 ゲーセンでは私は駐車場の車で待っていたけれど、旦那は昇平と一緒にゲーセンの建物の中にいた。「ぼくがやれるゲームは少なかったけれど、あまり来たことがないゲーセンに来られたから楽しかった」と昇平。途中で買い物をして家に帰ったが、昇平は車の中で旦那とゲームの話ができたし、食事もおいしかったので、大満足のお出かけになった。

 今日もたまに嫌なことは浮かんでくるけれど、「ああいうことを書く人は、まだ中身が子どもだってことなんだよね」「だから、うまくいいたいことが言えなくて、他の人を攻撃したり、傷つけたりするようなことを書くんだよね」と自分で整理ができるようになっている。まだそこに私の同意が必要だけれど、そのうちに、同意がなくても自分自身で納得できるようになるだろう。もう少しだね。
 昇平は、夜寝るまで、とても元気で機嫌が良かった。

−−−−−−−−−−−−−−−

12月5日(日)
 昨日に引き続き、昇平は元気で機嫌が良かった。「ポケモン」のアニメが新シリーズになってから、私も毎回観るようになったので、一日中、折に触れてはポケモンの話をしてくる。くわえて、懐かしのファミコンゲーム「ウィザードリィ」にもはまったので、それについての話もしてくる。時々思い出したように「モンハン」(これもゲーム)の話もする。とにかく、話したくて、話を聞いてほしくて、しかたがない様子。ひっきりなしにしゃべっていて、正直うるさいくらいだったけれど、これは昇平が元気になってきた証拠。調子が悪いときには、難しい顔で暗く黙り込んでいて、ゲームの話もアニメの話もしなかったものね。
 時たま、嫌なことは浮かんでくるのだけれど、昨日と同様「あれ(ネットでの「死ね」とか「殺す」とかのことば)は脅かしのために言っているんだよね?」「その時には本気でそう思っていても、すぐに冷静になって、そんなことはできないって思うんだよね?」と、整理できていた。特に夜寝る間際には不安になったようだけれど、これまでと比べれば、ずっとずっと症状が軽い。
 学校でトラブルが起きないことが、本人の不安定を落ち着かせている。不安定が落ち着いてきたから、頭にこびりついた嫌な考えにも自分なりの納得ができるようになってきた。表情が明るくなって、元気も出てきた。やっぱり、基本は「安心」だよね。
 ただ、まだ疲れやすいようで、自転車で町までノートを買いに出かけたら、帰ってきてから「疲れた〜」と何度も繰り返していた。まだ本調子ではないということ。今日は家庭教師も休みだったので、家庭学習を少なめにして、のんびり休むことを重視した。

[10/12/06(月) 08:40] 3行日記

[表紙][2010年リスト][もどる][すすむ]