昇平てくてく日記3

中学校編

昇平3行日記・16

※全然3行で収まっていない3行日記。


1月10日(月)
 冬休み最終日なので、今日は家庭学習は無しにして、一緒に福島まで出かけた。切符を買って電車に乗ることにもずいぶん慣れて、自分でも「大丈夫かもしれない」と自信をつけていた。
 福島では、いつものようにまず志望する高校まで歩き、その後、駅ビルで買い物してから、イタリアンレストランで昼食。混雑していてデザートが来るのが遅くなったけれど、その間昇平は携帯ゲームをしていて全然焦らなかったので、こちらものんびりした時間が過ごせた。その後はいつものように、昇平はゲーセン、私は本屋さんへ。いい本が2冊も見つかって嬉しかった。マク○ナルドで休憩し、旦那への土産に期間限定販売のハンバーガーを買って帰路についた。

 行き帰りの電車や車の中やハンバーガーショップで、昇平は幾度となくネットのコメントの意味について分析・確認していた。とうとうたどりついた答えが、「ぼくがショックを受けたようなことばの数々は、ネット方言なんだ!」ということ。コメントした人の本当に言いたいことは別にあるのに、それがうまく表現できなかったり、わざと違う言い方をしたりするから、それが誤解やトラブルを招いているんだよね、ということを言ってきた。「そう、そうなんだよ! まったくそのとおりなんだよ!」と思い切り賛同してしまった。
 ネット方言、というのは、実態を非常によく言い表していると思う。イメージ先行かつ短い言葉でやりとりされることが多いネット界では、子どもたちを中心に、独特なことばとやりとりのしかたを生んでいる。それはまさしく「方言」だろうと思う。「方言だから、普通の言い方に翻訳するといいんだよね」という話もした。実際、ショックを受けたやりとりも、「翻訳」すると理解できるし、受け入れやすくなる。この形で整理と理解(受容)が進むといいな、と思った。

 ただ、これも自分の中の不安が高まると、やっぱりうまく思い出せなくなってしまう。夕方にはまた不安発作が起きてきて、「あのやりとりは……」とネガティブな発言が始まり、薬を頓服して落ちついた。これは母の直感なのだけれど、昇平にひどい不安発作を起こさせないことも、治っていくための大事なポイントのような気がしている。

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1月11日(火)
 冬休みが終わって、いよいよ3学期開始。昇平は、昨夜寝るときから「学校へ行きたくないな」と言い出し、薬を飲んで寝たので、案の定、起きてきても早々に不安定になって落ち込んでしまった。不安発作も起こしたが、リスペリドンを服用して間もなく落ちつき、学校へ行くことができた。非常に寒い朝。その中を自転車を漕いで登校していった昇平は、本当に偉いと思う。
 始業式と清掃の後でワーク中心の勉強が2時間あって、帰宅は3時頃。予想よりずっと元気そうな様子で帰ってきたので、ほっとした。担任は今日はお休みだったらしい。志望校の願書提出が今月いっぱいなので、連絡帳で手続きのしかたを尋ね、決定次第知らせてくれるようにお願いした。

 その後、家では元気にすごしていたが、夕方と夜寝るときに、やはりまた不安発作が起きたので、リスペリドンを頓服。学校が始まれば回数が増えるとは思っていた。一日4回までなら大丈夫、と主治医に言われているので、その範囲内ではある。ただ、ひどくならないうちに薬を飲んでいるので、混乱が徐々に整理されてきて、発作程度や不安内容はずいぶん軽くなってきている。理解が進むように、毎日折にふれて話し合いを続けているけれど、これは一種の認知療法なのかもしれない。
 10時過ぎに、私と一緒に就寝。

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1月12日(水)
 今朝も起きたときから不安定。納得したはずの「ポケモンBW」の人気をしきりに気にしていた。薬を飲ませようとするのだけれど、朝一番で測定する体重に影響するから測定後に飲む、と言い張って、さらに不安定になっていくので、薬と水の重さを測定値から引くから大丈夫だよ、と言って飲ませた。
 Wii-fit は体重の測定と管理が簡単だし、運動量の目安もわかりやすくて優れものなのだけれど、朝の測定で100gでも増えていると、ショックを受けて「なんでだ!?」と怒るようになってきたので、当分測定は休むことにした。Wii-fitを始めて半年経ったけれど、2kg以上痩せて標準体重内になっているし、体も引き締まったので、当初の目的は達成している。今後は、食べ過ぎないことと、運動量に気を配っていれば大丈夫だろう。
 その後も不安定は続き、ポケモンの人気を気にし続ける。「ポケモンは大丈夫だよね?」と繰り返して聞いてくることばが、「ぼくは大丈夫だよね?」と言っているようにも聞こえる。本当の不安は無意識の中にある。自分自身への不安。受験への不安。「大丈夫だよ、絶対大丈夫だよ」と繰り返し答えてもらうことで、かろうじて耐えているいるのだろう。それでも「自分で自転車で登校する」と言って、30分遅れで登校していった。

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1月12日(つづき)
 午後1時半頃、どれちょっと昼寝でも……と思ったところへ、昇平から電話がかかってきた。テレホンカードを忘れて10円玉でかけてきたので詳しい話がわからず、「とにかく学校に来て」と言われる。急いで飛んでいくと、昇平は多目的教室で、L子さんは自分の教室で、それぞれの先生方に付き添われていた。昼休みにゲームの話をしていて大喧嘩になり、昇平はかなり興奮し、L子さんも意地になったのだという。「お母さんに何をしてほしくて呼んだの?」と昇平に聞くと、「L子さんの話がぼくでは理解できないから、代わりにお母さんが聞いてちょうだい」と答えたので、L子さんのそばに座って、じっくり話を聞いた。話がしょっちゅう脱線するので15分以上かかったけれど、結局、昇平との間で貸し借りしていた「ポケモン」のモンスターを、「冬休み明けまでの約束だったからもう返して」「まだ敵に勝てないから返せない」というやりとりになって喧嘩が起きたのだとわかった。モンスターを貸したのは昇平、借りていたのはL子さん。しっかり話を聞いた上で、「それは急ぎすぎたせいだから、もう少しモンスターを育てれば、ちゃんとL子さんも自分の力で敵に勝てるようになるよ」と話をしたら、L子さんもようやく納得して昇平と仲直りし、今度の土曜日にうちに遊びに来たときに昇平のモンスターを返すことになった。その後は2人ともとても楽しそうな様子になり、ポケモンの話で意気投合していた。やれやれ。(苦笑)

 まあ、はっきり言って小学校低学年レベルの喧嘩で、「これで中学生か」と言いたくなるような内容のことなのだけれど、当人たちはいたって大真面目。そう、しかたないのだよね。この子たちはどちらも社会性の発達がゆっくりだから、小学生時代にはそういう喧嘩ができなくて、今ようやく、それができるまでに発達してきたのだから。この発達段階を飛ばして、中学生レベルや、大人のレベルの社会性は身につけられない。そう考えれば、「よくぞ、こんな喧嘩ができるまでに育ちました!」と、2人を誉めてあげたい気持ちにさえなる。
 特別支援教室は、そういう、彼らに合った人との関わりを覚えるための場所でもある。喧嘩することは悪くはない。ただ、本人たちの話をしっかり聞いて受け止めて、整理してあげて、解決のための方向性を示してあげることが、関わる大人たちの役目なのだよね。
 とはいえ、そのために私を学校へ呼びつけたことは昇平も反省したようで、「卑怯な手を使ってごめんなさい」と謝ってきた。卑怯と言うほど卑怯ではなかったけれど、「学校での喧嘩は、基本的に学校の中で、先生たちの手を借りて解決するものなんだよ」と言い聞かせた。そうでないと、喧嘩のたびに呼び出されてしまいそうだから。

 L子さんとのトラブルが解決できて、昇平はとても元気に帰宅。その後も調子よく過ごしていたが、夜寝る頃になってまた不安発作を起こした。高校受験の願書の下書きして、また心配になったらしい。納得したはずの疑問や不安がまた復活してきたので、リスペリドンを服用して、11時頃に就寝した。

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1月13日(木)
 昨夜に引き続き、朝起きてからも不安定。でも、起き抜けにリスペリドンを服用したので、どうにか動けた。
 調子が悪いときには車で送ると言ってあったのだけれど、今日は私が親の会の支部例会なので、「できれば自転車で言ってもらえると、お母さんはありがたいのだけれど」と言うと、「じゃあ、自分で行く」と自転車で登校していった。それも、今日は実力テストがあるので、1校時開始時間に間に合うように行くことができた。本当はとてもしんどいのに、母のためにがんばってくれた。優しい昇平だ。

 支部例会は、月末にあるお楽しみ会の打ち合わせと茶話会。しばらく報告がなかったメンバーの話に耳を傾け、悩みを分かち合ったり、がんばったことを皆で誉めたり喜んだり。うちの会は皆仲が良くて雰囲気がいいから、例会に出るたびに元気になって帰って行ける。私自身はお世話係だから、ここで自分の悩みを話せることは少ないけれど、それでも、がんばっている仲間の話を聞くだけで元気が出てくる。大変なのは自分たちだけじゃない。そう思えるから。

 昇平の実力テストの結果は良くなかったらしい。さもありなん。「でも、がんばったんだよ」と言う昇平に、「うん。それに結果は気にしなくていいよ。あれは五教科で受験する人たちが、希望の高校に入れるかどうかをチェックするためのテストで、昇平くんには直接関係ないんだから」と話すと、ほっとしたような顔をしていた。その後は元気になって、夜寝るまで落ちついて過ごし、寝る間際に不安になってきたのでまた薬を飲んで、10時半頃私と一緒に就寝した。

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1月14日(金)
 相変わらず朝には不安定になるけれど、起きてすぐ薬を飲むようにしたので、以前より登校は早くなってきて、今朝は7時50分に家を出た。学校には8時20分頃に着いただろう。
 学校では特にトラブルもなく、落ちついて過ごしていたらしい。ただ、私は家の電話が鳴るたびに、昇平からでは!? と緊張していた。今日は特に電話の多い日だったので、一日に何度も飛び上がってしまった。

 帰宅後は、週末だというので、ずいぶん落ちついていた。学年末テストの範囲が発表になって、「おうちで学習計画を立ててください」と担任から連絡帳に書かれてきたけれど、今回はどうしようかなぁ、という感じ。調子の悪い昇平を、家庭の中でも叱咤激励するのはどうかと思うし、「努力しても点数に結びつかない」という挫折感を味わうことは、もうさせたくない。中学校最後のテストではあるけれど、適当に流すしかないのかもしれない。

 夕方、いつものようにまた不安定になってきたけれど、自分で薬を飲んで、ひどくなる前に落ちつくことができた。その後、夜はゲーム「ポケモンブラック」の最終決戦。戦い方が非常に上手で、見事ラスボスまで倒してゲームクリア。ゲームそのものは引き続き楽しめるようになっているけれど、ストーリーのほうは完結した。私もずっと見せてもらっていたけれど、今回のポケモンはストーリーが非常にいいし音楽もいい。よく考えて作ってあるなぁ、と大人の目から見ても感心させられた。それなのに、どうしてネットではあんなバッシング的な風評が起きたんだろう? 不思議だ。
 昇平は、とても機嫌が良くなり、夜も薬なしで一人で眠ることができた。

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1月15日(土)
 昇平はたっぷり眠って、朝9時半頃起床。落ちついて午前中を過ごし、午後は遊びに来たL子さんと楽しい時間を過ごしていた。L子さんに貸していたモンスターも、無事昇平の手元に戻ってきた。
 今回は、ポケモンの対戦だけでなく、正月に買った「毛糸のカービィ」で二人プレイにも挑戦していた。今まで対戦はしても、「協力して戦う」ということはやったことがなかった二人。最初はなかなか思うようにできなかったけれど、そのうちにけっこう連携も上手になっていった。
 夕方5時近くまで遊んでいたが、帰る頃になって、L子さんが隣室の私のところへ来て「なんだか疲れちゃった」と言ってきた。L子さんが帰ってからは、昇平も私に「今日は疲れたなぁ」と言う。二人とも、「協力して同じことをする」という初めての体験に、すっかりくたびれてしまったらしい。でも、とても良い経験ができたと思うよ、と言うと、昇平は嬉しそうだった。

 夜になって、昇平は非常に不安定。リスペリドンを夕食前と9時頃に服用して、それでも寝る前にまた不安定になった。疲れたためか、L子さんと遊び終わって現実に返り、迫ってくる受験を思いだしてしまったためか。さすがに、三度目の薬は飲まないと言って、がんばって自力で眠った。

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1月16日(日)
 今日は朝から不安定続き。それでも、午前中はアニメを見て、家庭教師と勉強をがんばっていた。本当にひどかったときと比べれば、だいぶ症状が軽くなっている気がする。
 旦那は今日は半ドンで、昼には帰ってきたので、一緒に外食と買い物に行った。そのこと自体は昇平も楽しんでいた。

 ただ、とにかく折にふれ不安になるようで、それも、何ヶ月も前に自分なりに納得して解決したはずのことを、また思いだしてゴチャゴチャと言う。やっぱり、「不安」の感情が根底にあって、それがいろいろな不安の記憶を引っ張り出してくるのだろう。来週は願書と作文を学校で仕上げて、週末には高校へ提出に行く。いよいよ受験が始まるので、とても不安でいるのだと思う。不安な記憶を口にしては、「大丈夫だよね?」「ぼくも大丈夫だよね?」と何度も言う。うん、大丈夫だよ、と言ってあげると、それで少し安心するけれど、外出先でも私から離れようとはしなかった。
 昇平の試験は2月前半の予定。来月中には発表がある。あと少し。本当にあともう少しだ。だから……がんばろうね、昇平。

[11/01/17(月) 09:51] 3行日記

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