昇平てくてく日記4

高校編

〔7〕遠足に行く

5月30日(月)
 昨夜から降り出した雨が、日中もかなり強く降っていた。昇平を車でフリースクールへ送ったが、JRが雨のために不通になって、スクールに来られなくなった子がいたらしい。
 その後、自立支援医療費の再申請のために、病院へ診断書をもらいに行き、その足で市役所に回って手続きしてきた。雨があまり強かったので、車が洗車したように綺麗になってしまった。
 ところで、今回の診断書では、昇平の主な診断名は「PDD(広汎性発達障害)」、従たる診断名は「ADHD(注意欠陥/多動性障害)」に逆転していた。今の昇平の状態を見れば、まったくその通りだろうと思う。「もとからそうだったでしょう?」と突っ込みたい方もいらっしゃるだろうけれど、そのあたりは、お医者様によって判断の違う部分なのだということで……。(笑) 診断名がどうであったって、昇平が昇平であることに変わりはないわけだから。

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5月31日(火)
 昇平は高校の授業の日。1,2校時目なので朝7時に起床したが、早起きすると調子が悪いので、鬱々しながら、なんとか気持ちを奮い起こして登校していった。
 授業は家庭科。子どもの発達に関する内容を教わってきたようで、「ぼくがネットで怖いと思ったような発言をしていた人たちも、元々はみんな小さくてかわいい子どもだったんだよね?」と言うようになった。人の成長と、それに伴う変化と多様性。そんなものから、昇平は今、自分のまわりの世界や人々を理解し始めている。
 そして、私は今、「学校とはなんだろう?」と改めて考えている。昇平たちの通う通信制の高校は、確かに全日制の高校から比べたら、授業で学ぶ内容は限定されているかもしれない。だから、将来役に立つ可能性の高い内容をピックアップして教えているのもわかる。ピンポイントの授業だから、ADHDを持つ昇平にも理解できて頭に入りやすい。一般的には、授業時間の長い全日制のほうが優れていて、登校日の少ない通信制は劣っているように言われるけれど、そんなことはないような気がする。本人が学びやすくて、学んだことを自分の糧にしやすい学校が、その子どもにとって一番良い学校なんだろう。

 倉の2階を解体して屋根をかける工事は完全に完了。旦那が午前中休みだったので、布団袋や大物の荷物を運び上げた。
 
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6月1日(水)
 高校の遠足の日。行き先は栃木県の那須ハイランドパーク。
 昇平は朝6時半に起床したが、自分一人でこういうものに参加するのは初めてなので、非常に緊張しながら出かけていった。集合場所で写メを撮って「どうやらここらしい」と私へメール、その後もメールは続いて、「今バスに乗ってます。zZ」(前夜、心配でなかなか寝付けなくて眠かったらしい)、「着きました。アトラクションより店が優先されるかも」「ポケモンのアトラクションを見ました。あまりの3Dぶりにビビりました」「昼飯。お土産はそれなりに買ったけど、他に買ってほしいもの、ありますか?」、(おじいちゃん、おばあちゃんにお菓子を買ってきて、という返信を受けて)「はいさ」……と実況中継をしてくれるので、家にいる私にも、彼が何をしているのかがよくわかった。

 パークに着いたときに、「一緒に回ろう」と言ってくれたお友だちもいたらしいのだが、それは「丁寧に断った」のだという。どうして? と聞いてみたら、アトラクションに参加するしない、を相手と相談したり、自分の気持ちをうまく相手に伝えられる自信がなかったからだと言う。確かに、那須ハイランドはジェットコースターや絶叫マシンが非常に多くて、昇平にはとても乗れないものばかりだったから、昇平と一緒に回ったら、全然アトラクションができなくて、つまらなく感じたかもしれない。
 結局、昇平はポケモンのアトラクションをひとつ見ただけで、後はパーク内や土産物屋を見て歩いただけだったが、それでも、先生や介助者がついていない状態で、自分一人で行動できたのだから、すごいことだ。乗り物券も、フリーパスでは割りに合わないと思ったようで、回数券を買っていた。もちろん券は残っていたけれど、それは来年の遠足でまた使うことができる。
 「お母さんが健康で元気でいられるように、これにしたよ」と昇平がお土産に買ってきてくれたのは、綺麗なステンドグラス調の四つ葉が付いた携帯ストラップだった。

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6月2日(木)
 昇平はフリースクール。私は午前中、親の会の支部例会に参加した。
 例会にはずっと市の保健センターを使っていたが、震災以降センターが利用できなくなっているので、町の公民館が会場になっている。今回は15名が参加で、メンバーの8割近くが出席。仕事を持っている人も多いのに、この状況でこれだけ集まってくるというのはすごい。
 内容は夏のお泊まり会についての話し合いと茶話会だったが、話題はどうしても原発と放射能と学校の現状のことになっていく。伊達市と福島市と南相馬市の会員がいるけれど、どこの教育現場も非常な混乱状態。学校や教育委員会は精一杯子どもの教育を守ろうとしているけれど、放射能汚染に関する情報や基準の変化が混乱に拍車をかけている。いつになったらこの状況が落ち着くのか、まったく目処がたたない。
 それでも、みんなと存分に話し、ランチになど行くと、「またがんばるぞ」という気持ちになれる。仲間がいるというのは、本当にすばらしい。

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6月3日(金)
 フリースクールが休みなので、学校へ行く日。授業はないので、職員室でレポートを進めたり、お弁当を食べたりしてきた。
 つい先日まで暖房機が欲しくなるような肌寒さだったのに、一気に蒸し暑くなって、夏の陽気になってきた。急激な気温の変化に体がついていかない。
 昇平がDSウェアで「オセロ」を買ったので、夜、二人で対戦した。ゲーム機のオセロは、次にどこに石を打てるか教えてくれるので、昇平にもやりやすそう。私のほうは逆にどこに石を打てば効果的なのかを見極めにくくなったので、勝率は五分五分。「こういうボードゲームもけっこう楽しいね」と昇平が言うのを聞いて、人と遊ぶ楽しさに目覚めつつあるんだな、と再確認した。
 
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6月4日(土)
 土曜日だが、昇平は授業があるので学校へ行った。
 通信制の高校には、平日コースと土日コースがあることが多い。昇平の学校にも平日コースと週末コースがあるけれど、実際には授業によってどちらに出ても良いことになっている。今日は初級英語の日。「どのくらい生徒が集まっていた?」と聞いたら、「30人くらいかなぁ」という返事だった。土曜日にもけっこう参加者がいるらしい。
 授業の後はまた職員室でレポートを進めて、昼食はいつものようにハンバーガーショップで「ワンコインランチ」。「いつものように美味しい」と写真入りでメールを送ってきた。ただ、近くのテーブルにいた男子高校生がけっこう乱暴なやりとりをしていたようで、「不安になるようなことを聞いてしまった」と、少し落ち込んで帰宅してきた。たぶん、「死ね」の「うざい」のといったことばの連発を耳にしてしまったのだろう。疲れているようだったので、リスペリドンを飲ませて、夕方まで昼寝をさせた。

 この日は午前1時に福島県沖を震源とする地震があって、浜通りで震度5弱。伊達市は震度3だったけれど、けっこう長く揺れたので、私も昇平も目を覚ましてロフトベッドの下に避難した。日中もゆさゆさという横揺れの余震が何度も起きて、なんだか落ち着かない一日だった。

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6月5日(日)
 前の夜は落ち込み気味だった昇平だが、たっぷり寝て、アニメ「ポケモン」を見たら次第に元気になってきた。前日耳にした男子高校生のやりとりも、「冗談」「仲間内での遊びのようなもの」と整理ができるようになってきた。不調になると、これがまたわからなくなってしまったりするのだが、全体的には整理が進んできていると思う。リスペリドンを頓服する回数も減ってきている。

 一日家にいたが、鬱陶しくなってきたし体も動かしたくなったので、昇平と買い物に行くついでに公園まで足を伸ばした。天気はよいのに、公園内に人影は少なく、日曜日だというのに子どもの声はまったく聞こえてこない……。みんな、放射線を気にして家の中にいるのだよね。もちろん、被爆量を少しでも減らすことは大事なのだけれど、その一方で、ストレスや運動不足から来る健康への被害はどうなるのかな、と気になるところ。
 何が良くて何が悪いのか。何が正しくて何が間違っているのか。それすらよくわからなくて、震災後3カ月が過ぎようとしているのに、いまだに混乱に収拾がつかない福島県だったりする。

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[11/06/07(火) 10:41] てくてく日記

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