〔28〕納得する
経過を丁寧に記録したいので、今回の日記はちょっと長めです。
10月24日(月) 3校時目に保健体育の授業があるので、8時に起床して9時に登校、午後1時過ぎには帰宅した。
間もなく旦那も半ドンで帰宅したので、「一緒にインベーダーゲームをしよう」などと言ってご機嫌で午後を過ごしていたが、夕食後の入浴中にフラッシュバックを起こしたようで、風呂から上がってきたときにはパニックになっていた。
最近のパニックはもう暴れたりする形ではないが、全身がこわばり表情は険しくなり、目つきもおかしくなって、見るからに普通ではない状態になってしまう。ネットでの悪口の応酬を思い出しているようで、「いつまでもダーダー言うくらいなら(=ぐだぐだ言うくらいなら、の意味)、ただ言ってないで、いっそ本当にやればいいんだ」と言う。つまり、「死ね」だの「消えろ」だのと連呼するくらいなら、本当に「消してしまえばいい」のだ、と。
さすがにこれは聞き流すことができなかった。
「その考え方は間違っているよ! それにずっとダーダー言ってるのは昇平くんのほうでしょう! その理屈が正しいのなら、昇平くんこそ、口で文句ばかり言っていないで、その人たちのところへ行って本当に消してくればいいでしょう!」
子どもへは常に静かに穏やかに話しかけましょう、というペアレント・トレーニングの教えはどこへやら。ガンガンそう叱りとばしたら、昇平は仰天。鼻白んだように「ぼくにはできないよ。そんなことをするのも嫌だよ」と言う。
「だったら何故、あの人たちにはそれをやれと言うの? おかしいでしょう。ダーダー言っているのは君なんだよ。君もあの人たちと同じことをやっているんだよ――!」
反省したらそれで叱るのをやめる、というのもペアトレの基本だけれど、それも忘れて叱り続けること5分以上。罰として、その夜のカードゲームもやらないことにした。
私が叱られたのがよほどショックだったのだろう。昇平はしょんぼり。旦那にSOSを求め、その後、「ぼくは疲れたからもう寝るね」と言って、8時前に部屋に引っ込んでしまった。
昇平が「いっそ消してしまえば」と言ったのは、頭の中で際限なく繰り返されてしまう嫌なやりとりを消したかったから。それはわかっているのに感情的に叱りつけたので、私のほうもどうにも気分が悪くて、夜はいささか落ち込んでしまった。
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10月25日(火) フリースクールの日。
昇平は前日の影響を引きずって、元気のない様子で出かけていった。スクールでは先生やSくんに自分の考えを聞いてもらい、「それを本当にやったら犯罪になっちゃうよ」とか「世界にはいろんな人がいて、ひとりずつ違っているんだよ」ということを教えられてきたようだった。
帰宅してからその話をするので、こちらも今度は落ち着いて、「人はひとりずつ違っているから、人と人とが出会えば必ず違うところがぶつかり合うものなの。そのぶつかり合いが喧嘩。でも、それを通じて他人を理解できるようになるのだから、喧嘩は決して悪くはない。喧嘩は仲よくなっていくための通り道なんだよ」ということを話し、実力行使の喧嘩よりは話し合いで解決したほうがいいことを話し、さらに「でも、昇平くんは人が口論している様子を見たり聞いたりするのは生理的にとても辛いから、そういう場面に出会ったら離れるのが大事なんだよ。それを『スルーする』というんだよ」と教えた。
以上のことは、これまでも折に触れて教えてきたつもりだったけれど、どうやら本人の中にストンと落ちるタイミングがあるらしい。自分もあの子たちと同じようなことをしていたこと、自分自身を棚に上げて勝手な要求をしていたことが理解できた、というようなことを言ってきた。
それ以外にも、かなり長い時間話し合いをしたけれど、その後で、「昇平くんは今日、生きていく上で一番大事なことの一つを学んだね。また一つ大人になったね」と言ったら、とても嬉しそうな顔でうなずいていた。
補修工事は、昨日今日で2階の東の部屋の壁塗りが終わって、2階の分はすべて完了した。3日ほど壁が乾くのを待ってから、週末に荷物を部屋に戻す予定。
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10月26日(水) 今日は校長講話を聞くために登校。
前日のやりとりはかなり納得がいったようで、朝から落ち着いていたし、家を出るときには、「話し合いで解決するのが大事だってわかったよ。ぼくは、自分の頭の中でも、話し合いで解決したいと思ってるんだ」と言って出かけていった。
自分の頭の中でも話し合いで解決する、というのは、どうやら「内言語」を使った自分自身とのやりとりのことを言っているらしい。自分をコントロールしてくれる、もう一人の自分。また一つ大人の階段を昇ったみたいだな、と思った。
校長講話には以前のように居眠りすることもなく参加して、帰宅してからは課題の感想文に取り組んだ。『ヤンキー、弁護士になる』という本の内容を元にした話だったようだが、感想文には「ぼくも中学の時には暴力を働いてしまうことがあったけれど、もうあの頃のようには戻りたくない。」と書いていた。
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10月27日(木) 今日はフリースクールの日。
終日安定していて、ネットで騒いでいた人たちが「何故」そんなことをしたのかを理解しようと、頭の中で対話しているようだった。「きっと、誰かの発言が原因ではなく、それ以前になにか嫌なことがあったんだよね」などと、頭の中で結論が出てくると、思い出したように私にも聞かせてくれた。
ネットや子ども同士の間における「死ね」ということばが、今では「馬鹿」や「あっちいけ」くらいの意味でしかなくなっていることも、改めて確認した。「馬鹿、と言われたら、その人は本当に馬? 本当に鹿? 違うよね。死ね、もそれと同じで、もう元の意味からは離れてしまっているんだよ」と話して聞かせたら、昇平は笑っていた。
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10月28日(金) 今日は電車とバスを乗り継いで、体育館に体育に行く日。
最終的には昇平ひとりで行けるようになってもらいたいので、私が付き添いながら、少しずつ本人の自立を促しているのだが、朝、さあ出発、という段になって、上履きがズック袋ごと行方不明になっていることが判明した。2階の補修工事のために荷物を片づけたせい。探し回って電車に乗り遅れ、結局自家用車で体育館に向かった。
その車の中で、昇平が「あの日、お母さんに教えられたおかげで、気持ちが明るくなってきた気がするよ。嫌なことをほとんど思い出さなくなったんだ」と言っていた。悪口を言っていた人は、それ以前に何か理由があったのかもしれない、というようなことも言う。
実際、水曜日以降、昇平はとても安定していて、表情も明るくなっている。「ずっと疑問だったことに答えが見つかって納得できてきたんだね。よかったね」という話をした。
体育は今回も卓球。「バレーとバスケと卓球から好きなのを選べるし、嫌なことはやらされないからいいんだ」と体育の時間も嫌ではない様子。私は体育館から5分くらい離れたファーストフード店の前で昇平と別れ、昇平が授業を終えて戻ってくるまで、そこで本を読みながら待っていた。今年度の体育はずっとこんなふうに付き添うけれど、来年度はぜひ自分ひとりで行ってもらおうと思っている。
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10月29日(土) 2階の東の部屋の壁が乾いたので、家具を搬入・設置して、まず押し入れに荷物を戻していった。
家具の数が少ないので楽勝だと思っていたら、家具を動かしたり、カーペットをめくったりするたびに、砂がざらざらと出てくる。地震で崩落した壁から落ちたもの。目につくところは大工さんが工事の際に強力な掃除機で掃除してくれたけれど、物陰や敷物の下には残っていた、というわけ。壁を直した押し入れも、まだ埃だらけ。掃いたり拭いたりの掃除に手間取って、思ったようにはかどらなかった。
それでも、昇平は家具を動かすときや布団を運ぶときに、ずいぶん手助けしてくれた。やっぱり男の子。力があるので、いざというときには頼りになる。
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10月30日(日) 昨日に引き続き、2階の東の部屋の片づけ。
家具は設置が終わったので、段ボール箱などに入れて階下に下ろしていた荷物を運び上げて、収めていった。
今回の震災と補修工事を機に、この部屋はほぼ完全に昇平の子ども部屋になることになった。机周りのレイアウトも変えて、本人に荷物を片づけさせたら、かなり頭を使ったようで、「疲れたー!」と言って、昼食後に2時間も昼寝してしまった。その間に、優しい妖精さんのように、母が片付けをちょいとお手伝い……。
昇平は夜にまた片付けを再開して、10時頃、完璧なまでに綺麗に整理整頓を終えた。モノを出し過ぎることもなく、必要なモノを取りやすい場所にきちんと収めている昇平に、これがあの「散らかし魔」の昇平と同一人物か、と思ったり。頭の中ではまだ多動や混乱が続いているけれど、少なくとも身の回りに関しては、AD/HDらしい部分がほとんど目立たなくなった、と最近感じている。
ただ、さすがに疲れたのだろう。寝る間際になって、「また(嫌な考えや不安が)戻ってきた」と暗い顔になってきたので、急ぎリスパダールを飲ませて、「疲れたんだよ」と休ませた。昼寝のせいで、結局は12時過ぎまで寝られなかったようだが、不安定な感じはおさまって、また元気になっていた。
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[11/10/31(月) 15:16] てくてく日記