てくてく日記・132「不安の仕分け」
昇平が遠足で行った五色沼===============
10/21(月)〜10/27(日)
月:スクーリング(校長講話)
火:フリースクール、ホールボディカウンター検査
水:遠足(裏磐梯五色沼)
木:フリースクール
金:スクーリング(地学)
土:歯医者
日:散髪
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先週の続き。
日曜日の夜に不安定になったので、落ち着かせようとあれこれ話をしたのだが、どうにも納得がいかない様子の昇平。とうとう自分から紙に「この世の悪」を書き出し始めた。病気、不幸、社会問題、差別、無職、自殺、金、戦争、薬の乱用、環境問題、殺人……とまあ、ネガティブなものをずらりと並べて、「世界は悪で満ちているんだ!」と言う。
けれども、内容をよく見てみると、どれもこれもテレビや新聞・雑誌といったマスメディアや学校などで「事件・問題」として取り上げられていることばかり。昇平を取り巻く世界にこれだけの不安材料がひしめいているように感じて、それに押しつぶされそうになっているんだな、と思った。もちろん、一般的に「社会には問題がひしめいている」という言い方はするけれど、そのことばが意味しているニュアンスより、もっともっと濃い密度で想像しているのだろう。
そこで、彼が「悪」だと言っていることを整理してみることにした。
まず1枚目のメモ用紙に、「人間や人生につきもので、どうしてもなくすことができないもの」を書き出してもらった。
人間には生きている限りどうしてもなくせない苦しさや苦労があることは、これまでに何度も話をしてきたので、仕分けはスムーズで、病気、不幸、死、失恋、金、怒り、苦しみ、悲しい、涙、ストレス……なんてものがここに分類された。それを眺めて昇平が「なんだか生理的なものが多いみたいだな」とぽつりと一言。
次に2枚目のメモ用紙には、「なくせないけれど、減らした方がいいもの」を書き出してもらった。
これに関しても何度も話してきたので、やはりスムーズに仕分けができる。いじめ、変態、社会問題、性問題、差別、無職、自殺、引きこもり、学校問題、殺人……がここに入った。それを見て昇平は「社会的なものが多いな」とまた一言。
これでもう、彼が「悪だ!」と騒いでいた内容はほとんどなくなってしまった。
3枚目のメモ用紙に「完全になくした方がいいもの」と書いて渡したら、戦争と薬の乱用だけが入った。ただ、実際には大昔から戦いが繰り返されていて、戦争がなくならないことはわかっているので、もう少し話をしたら、「世界戦争のことなんだ」と言った。なるほど。今度世界戦争が起きれば、核兵器などの本当に危険なものが使われて、全人類が決定的なダメージを受けるだろう。それは確かに「完全になくした方がいいもの」だね。
ここで1枚目に戻って、生理的なものが多い、と気がついた「人生につきものの悪」を見直し、金は上手に使えば全然悪いものではないから違うよね、涙だって出なかったら困るよね……などとさらに整理していって、結局はこれらの困難は基本的に生理的なものだから、生きていく上で絶対なくすことはできないんだ、という結論に至った。ただ、たとえば病気なら、それを治す方法や薬が常に研究されていることは話した。
つぎに2枚目の社会的な問題について、一つずつ確認してから、どれもこれもマスメディアで取り上げられていて、「減らそう!」と呼びかけているものだということに気づいてもらった。たとえことばでは「自殺をなくそう!」と言っていても、ゼロにするのは非常に難しいから、実際には「自殺を減らすこと」を目標にしているのだと話して聞かせた。そうだったのか、と昇平は納得。
3枚目の絶対になくした方がいいものについても、やはりいろいろな場ですでに多くの人が呼びかけていることを確認。
つまり、昇平が悪だと考えていたことは、どれもこれもすでに「減らすこと」「なくすこと」を呼びかけられていて、多くの人がそれに向かって動き出していることだった。
「これが実際の姿なんだけれど、こういう世界は将来悪一色になってしまうかな?」と尋ねたら、「ならないね」と昇平。さらに、「社会に呼びかけられていることだから、ぼくは気がついたのか。とすると、ぼくは呼びかけていないことには気がついてないってことだな」ともつぶやいていた。……その通り。
こういう問題は一個人の力で解決できないことも併せて確認した。一人では減らしたりなくしたりすることができないけれど、みんなで取り組めばできる。だから広く呼びかけているんだ、ということも確認。
一度呼びかけても気がつかない人も大勢いるから、何度も何度も、いろんな場所で呼びかけている。だから、まるでものすごくたくさんの問題が氾濫しているように見えるんだよ――という話もしたら、「一度聞いても本気にならないってことは、世の中にはのんきな人が多いってことなんだな」と昇平。……はい、まったくその通りですね。(苦笑)
定型発達をしてきた人の場合、こういうことはいちいち説明されなくても、日々目にしている社会の様子から簡単に判断することができる。
どんなにテレビや雑誌などでセンセーショナルに呼びかけたとしても、実際に自分が目にしている風景の中で、そんな問題は滅多に起きないから、遠い別の場所の出来事ととらえたり、今すぐどうにかなることじゃない、と考えて、目にした情報を自分から脳内の適当な場所に納める。
でも、昇平には、まず「情報が入りにくい」という特徴があって、次に、「入ってきた情報を適当な距離や場所に納めることが難しい」という特徴を持っている。さらに、「なんとか納めた情報を使いやすく整理したり、情報と情報を関連づけて考えることも難しい」のだが、ここを手伝ってあげると、判断する力はあるから、適切に判断ができて、混乱していた頭と気持ちがすっと落ち着いてくる。
ちなみに、私が使った「世界の悪」の仕分け方法は、ペアレント・トレーニングの中で学んだ「子どもの行動を3つに分類する方法」の応用。ペアトレはこんなところでも役に立ったなぁ、と後になってから、ちょっと笑ってしまった。
その後、昇平はスクーリングを受けたり、フリースクールへ行ったり。水曜日には学校の遠足で裏磐梯の五色沼に行って1時間半ほど歩いてきたが、精神的にはその後も元気で、一週間ずっと落ち着いて過ごしていた。
(2013.10.28記)
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