昇平てくてく日記4

高校編

てくてく日記・172「家事練習中」

Cooking
昇平が作った料理(写真をクリックすると大きくなります・説明は文末)

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10/6(月)〜10/12(日)

月:フリースクール
火:フリースクール
水:家事練習
木:家事練習
金:授業(現代文)・家事練習
土:T君L子さん遊びに来る・家事練習
日:家族で外出

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 わけを話すと長い話になるのだけれど、昇平は今、家事練習を毎日がんばっている。

 そもそもの始まりは、親の会の学習会で、お母さん仲間のひとりが話してくれた「もう成人した長男が、当事者の下の子と同じくらい、洗濯や掃除なんかの家事を知らなかったんだ、ってわかって、一緒に特訓しているところなのよ」という報告。
 今はもう男の子でも料理、洗濯などの家事は身につけておいたほうが良い時代。しかも、「親がしていることを見て自然に覚えるタイプ」ではない子たちの場合は、親が意識して教えなくちゃいけないよね、という話になった。
 そういえば、大学時代から関東でひとり暮らししている長男も、高校卒業までは家事の「か」の字もやったことがなくて、小さい頃に一緒に少し料理をしたことがある程度だった。引っ越しまでのあわただしい中、洗濯や料理の仕方などを教えて、心配しながら送り出したことを思い出した。
 昇平は「ぼくは家族と一緒に家にいたい」と言っているので、ひとり暮らしすることはないかもしれないけれど、先日のように私が入院したり、何かの都合で昇平だけで数日留守番しなくてはならないこともあるかもしれない。やっぱり昇平にも最低限の家事は教えておいたほうがいいよね……と、漠然と考えていた。

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 そんな中、私は偶然、とある本に出会った。「旦那さんはアスペルガー」という漫画エッセィの3巻目。「旦那」という部分には「アキラ」とふりがなが振ってある。
 作者は野波ツナさんという漫画家の女性で、配偶者のアキラさんは大人になってから、自閉症の一種であるアスペルガーの診断がついた人。結婚して子どもも生まれ、マイホームも買って、傍目には幸せに見えたのに、夫婦の会話は成立しないし、他人には理解できない不可思議な行動をいろいろするアキラさん。家計や家のローンの支払いは奥さん任せ、アキラさんの借金も発覚してとうとうマイホームを手放すことになり、ツナさんと子どもたちは奥さんの実家に身を寄せ、アキラさんは生まれて初めてのひとり暮らしをするようになる……。
 というところから3巻目が始まるのだけれど、全体の雰囲気は温かいし、絵柄も優しいので、とても読みやすい本になっている。
 ふむふむ、と興味深く読むうちに、アキラさんがひとり暮らしをして、初めて家事や節約を理解して身につけていくエピソードに出会って、「ああ、そうだ」とまた、若いうちから家事を覚える必要性を感じてしまった。やっぱり昇平にも家事を教えよう。でも、どういうタイミングで始めようかな……。

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 そんなことを考えていたら、火曜日、昇平が元気のない様子でフリースクールから帰ってきた。
 「どうしたの?」と聞くと、「ぼくは明日からフリースクールに行かないことにする。休みたい」と言う。さらに詳しく話を聞いてみたら、スクールで先生にたびたび注意されて、他の利用者にも迷惑をかけているから、自分は家にいた方がいいと思うんだ、ということを言った。
 とはいえ、この手の話を100%そのまま受け取ってはいけないことは、経験上わかっている。
 昇平はすぐに何でも「自分が悪かったんだ」と思うし、たまにちょっとしてしまったミスを「いつも失敗してしまう」「とても悪いことをしてしまった」と、重大なことのように考えがちだから。昇平は間もなく高校を卒業して社会に出るので、フリースクールの先生が昇平の人との関わり方の部分に力を入れて指導してくれていることは知っていたので、そのあたりの指導も「叱られた」と感じているんだろう、と予想がついた。
 中学校時代、学校からたくさん叱られ、トラブルにトラブルを重ねて自信をなくしていったことも、思い出してしまうのかもしれない。

 とにかく、精神的にだいぶ疲れている感じだったので、まず、スクールの先生とメールで詳しく相談。やはり昇平が心配しているような深刻な状況ではないとわかったので、「連休明けまで休ませて、家庭でも自信回復していけるように働きかけたいと思います」と先生には伝えた。
 さて、でも、どうやって昇平に自信回復してもらおうか……?
 今の昇平は、言ってみれば、ちょっとした不登校の状態。先生やクラスメイトから注意されて、自信をなくして学校へ行けなくなっているようなもの。
 抑鬱状態にも似ているけれど、鬱の時のように「休息と安静」だけでは元気にはならない。だって、一番の原因は、人とうまく関われないために、自分に自信が持てなくなっていることだから。家に引きこもって、寝たり遊んだりしているだけでは、いつまでたっても自分に自信はわいてこない。
 じゃあ、どうしたら自分に自信が持てるようになるかな? と考えたときに、「家事を教える」ということと、自分でそれなりに家事ができるようになって自信が出てきたアキラさんの姿が思い浮かんだ。
 そうだ! 家事! 家事を教えて、それができるようになれば、昇平も「自分にはできることがある」と実感できて、きっと自信回復していくに違いない……!

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 というわけで、フリースクールを休む交換条件に「休みで家にいる日には、母に習って家事を手伝うこと」という約束をした。
 まず、起床時間を30分早めて7時半起床。朝食を食べ終えたら、洗った茶碗を拭いて後片付けを手伝い、洗濯機に洗濯物と洗剤を入れて回す。次に家の中に掃除機(充電式のコードレス掃除機)をかけ、掃除が終わったら洗濯物を干して外に出す。午前中はここまで。
 昼は食事の後で自分が食べた茶碗を洗って片付ける。昇平が希望すれば昼食も作る。
 夕方は乾いた洗濯物を取り込んでたたみ、米をといで電気釜をしかけて、夕食を作る。メインのメニューは昇平の希望に添って決め、私は昇平に作り方を教えながら、副菜や味噌汁を作る。

 さすがに19歳にもなっているし、お楽しみ会などでしょっちゅう調理実習をしているので、包丁で切ったりするのはかなり巧くなっていた。1時間くらいは集中して作業できるようになっているので、掃除も調理も最後まできちんとやり通せる。教えられたことを守りながらやろうとするので、仕事は丁寧。実際にやらせてみたら、カレーは私が作るものよりおいしくできたし、家の中は私が掃除するより綺麗になった。まいったな……。(苦笑)
 自信を取り戻してもらうのに、意識してたくさん誉めてあげなくては、と考えていたのだけれど、わざわざそんなことをしなくても、いくらでも誉めることができている。

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 一方、フリースクールの先生からも、昇平宛に「○○くんが、昇平君がいないと一緒にポケモンの話ができなくてつまらない、って言っていたよ」「△△くんは、昇平君がいつもポットを湧かしたり雑巾がけをしてくれたりしていたから、いないと困る、と言っていたよ」と、お友だちのことばを伝えるメールが届いた。それを読んだ昇平は「ぼくはやっぱりフリースクールにいていい人間だったんだね!」と喜び、家事練習の効果もあって、ずいぶん自信回復していった。
 昇平が作った料理の写真も先生にメールで送っていたので、「連休明けには料理教室をするよ。みんなで買い物に行くし、たくさん切ったりするから、昇平君も手伝ってくれよ。頼りにしているから」と先生にメールで言われて、昇平は「先生に頼りにされちゃったよ!」と照れながらもまた大喜び。連休明けには無事またフリースクールに行けそうな様子になっている。やれやれ、一安心。


 日曜日の夕方、夕食を作り終えた後で、昇平がふと言った。
「こういうふうに家のことをするっていうのもいいな。なんだか前より落ち込まなくなったよ」
 アキラさんがひとり暮らしを始めて変わったように、昇平にとっても、自信を持って自分の生活をこなせるようになることは、本当に大切なことだったんだな、と思った。


【写真のメニュー】
左上:家事練習で初めて作ったカレーライスとピーマンのおかか炒め。カレーは隠し味にトマトを入れて丁寧に作っていたので、母のカレーより美味しかった。

右上:昇平の大好物の「鍋」。ネギは焼いて香ばしくして入れていた。父から大好評。

左下:大盛り和風たらこスパゲティ+唐揚げ。市販のパスタソースと冷凍品で作った自分用の昼食。

右下:焼き肉と蒸し野菜。


(2014.10.12記)

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[14/10/13(月) 09:43] てくてく日記

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