ADHDの子どもへの対処法を考える
 〜ペアレント・トレーニング第三回目より〜
子どもの行動を3種類に整理してみよう

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さて、この回からは、実際に朝倉が受けたペアレント・トレーニングのレポートになります。
その1回目は、『子どもの行動を3種類に整理してみる』

私たちの目の前に、一枚のプリントが配られてきました。タイトルには「子どもの行動を整理しよう」と書かれています。子どもの行動を整理する? はて、どういうことかしら・・・???
大きな疑問詞をのせた頭のまま、講師の中田洋二郎先生の説明を聞きます。


●「子どもの行動」の整理のしかた

 まず、一週間の中で、特に変わったことや行事などのなかった、普通の日を一日選んで、その日の子どもの行動を思い出します。あらかじめメモ用紙を準備しておいて、その日の子どもの行動を観察しながら記録していっても良いです。
 その行動を、次の3つの種類に分類していきます。

 1.これからも続けてやってほしい行動(増やしたいこと)

 2.これからはやらせたくない行動(減らしたいこと)

 3.2度とやらせたくない行動(人を傷つける、ものを壊す)

 渡されたプリントには、3つの行動が書かれていて、その下に、空欄が6つあります。そこに、思い出した行動を分類して記入していくわけです。
 その際に注意しなくてはいけないのは

 ・できるだけ具体的に書くこと
 ・目に見えること、聞こえること、数えられる行動を選ぶこと
 ・親の願望ではなく、実際に子どもが行動したことを書くこと



 実際にはこんなNGが出やすくなります。

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

「片づけをした」「行儀良く食べられた」
もっと具体的な様子を書き込みます。「『片づけて』と2回言ったら片づけをした」とか、「食事中、一度も席を立たないで最後まで食べられた」とか。
それをもとにして子どもをほめていくので、ほめる基準となる、具体的な数字や様子を意識的に書き込みます。
また、行動そのものも、できるだけ小さく分けて書くようにします。ただ「片づけをした」ではなく、「自分の出したおもちゃを一カ所に集められた」とか「おもちゃをおもちゃ箱に3個入れられた」とか「おもちゃ箱を所定の場所に戻せた」というように。

『続けてやってほしい行動』に「朝早く起きてほしい」「勉強を毎日してほしい」などと書く。
これは、子どもが実際に行った行動ではなく、親が「こうしてほしい」と思っている願望です。そうではなく、実際に子どもが行った良い行動を見つけましょう。

「うちの子には良い行動なんて全然ありません。」
そんなことはないんです。そんな子でも、よくよく観察すれば、必ずほめられるような良い行動をする瞬間があります。些細なことから始めて良いのです。「いつもは10回も注意されるのに、今日は7回しか注意されなかった。」なんていうのだって、続けてほしい良い行動に入れてよいのです。

×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××

 さて、私もさっそく、先週の金曜日の様子を思い出して書いてみました。親が仕事をしていて、普段はあまり子どもと接触がない場合は、お休みの日などを選ぶと良いそうです。
 右下の表は、実際に私が記入したものですが、こんなことを書いています。

「これからも続けてやってほしい行動」

朝トイレに行き、自分からスリッパをはいた。

着替え中、気がそれそうになったが、声をかけられたらすぐにまた着替えを続けられた。

保育園で、先生に向かってきちんとおじぎをしながら「おはようございます」と言えた。

分からないことばを見たり聞いたりしたとき、「これはどういうこと?」と母に質問した。

自分のほしいもの(食べ物や洋服)について、自分のことばで説明することができた。

夜9時すぎたのでビデオを止めたら不満を言ったが、「明日続きを見ようね」と言ったらがまんすることができた。


「これからはやらせたくない行動」

保育園でA子ちゃんが泣いたら、つられて泣き出して、関係ない近くの子を叩いてしまった。

タンスの表面に修正液(ホワイト)でカービィのらくがきをした。

お風呂の時間になっても、なかなかお風呂に入りたがらない。


「2度とやらせたくない行動」
  なし

「行動整理表」
行動整理表

 今見直してみると、自分のほしいものをことばで言えた、とか、お風呂になかなか入りたがらない、というのは漠然としすぎていたかも。もう少し具体的に書くべきでした。

 表の形としては、私が書いたように、左から右に向かって項目が少なくなり、「2度とやらせたくない行動」がひとつもないのが理想的だという話でした。逆に、右の方が多く左に行くにしたがって少なくなってしまう形だと、かなり本腰を入れてペアレント・トレーニングを行い、親子の信頼関係をしっかりと結び直す必要があるのだそうです。



実際のトレーニングでは、受講者の代表に自分の表を読み上げてもらい、中田先生がその行動をきちんと整理し直すのを聞きながら、自分の書いたことを見直していきました。
具体的には、上に書いたようなNGをチェックしたり、分類が違っている行動を正しいところに整理し直したりします。
そうして、子供の行動が整理できたところで、次に実践するのは・・・
 

●「これからも続けてやってほしい行動」をほめる

 「これからはやらせたくない行動」や「2度とやらせたくない行動」にどう対処したらよいのかはとても気になる問題なのですが、まず、子供の良い行動に注目して「ほめる」のがペアレント・トレーニングの第一歩です。
 子どもが「これからも続けてやってほしい」良い行動をしたら・・・

 ・すかさず、タイミングよくほめる
 ・視線や体の向き、表情、声の調子に気をつけてほめる。
 ・具体的な行動を取り上げてほめる
 ・批判や命令の意味はこめない。


〜解説〜
・昼にやった良い行動を夜ほめられても、子どもは忘れてしまっています。覚えていても、なんとなくタイミングがずれていて、あまり嬉しく感じられないかも。良い行動をしたときには、その場ですぐにほめましょう。

・「偉いね」とただ口先でほめても、心がこもっていなければ子どもはすぐに見抜きます。あさっての方を向きながらほめるのもNG。ほめるときにはしっかり子どもと向き合って、視線を合わせて心から。また、いつも同じほめ方だと、ワンパターンで効果が薄れます。

・ただ「お利口だね」とほめるよりも「お箸を並べてくれて助かったよ。ありがとう」などと、行動を具体的に言うようにします。そうすると、子どもは自分のどの行動が良かったのかを理解できます。

・「たくさん勉強できたね。いつもこうだといいのにねぇ」などと、皮肉を込めてしまったら、せっかくほめたことばが台無し。子どもは一瞬嬉しくなったのに、すぐに「ムッ」としてしまいます。ほめるときには純粋にほめるのに専念すること。


 「ほめる」というのは、肯定的な注目を与えること。
 大人でも注目されてほめられるのは嬉しいのですから、子どもならばなおさらです。またほめてもらいたくて、同じ行動を繰り返すようになります。
 そうやって、良い行動を増やしていくことで、自然と、逆の望ましくない行動が減り始めます。
 だまされたと思って(いや。だましているわけではないけれど)、1カ月間これを続けてみましょう。  きっと、子どもが扱いやすくなってきた、と感じるはずです。



●ほめるポイントと具体例(我が家の例)
1.

小さなことでいいから、良い行動を見つけて取り上げる。

例)

「はい、ってちゃんとお返事できたね。偉いね〜」
「おー、靴を右左間違えないではけたんだ。すごいすごい」
「自分から時間を見てゲームをやめたんだ。さすがは6年生だね〜」(これは長男に言ったことば)

2.

具体的な行動や回数に注目してほめる。

例)

「今まで20分かかって着替えしていたのに、今日は15分で着替えられたんだね。やったね〜!」

「今日は早かったね」
3.

ほめるときには徹底的に。

例)

長男「宿題全部終わらせたぞ〜!」
母 「それはすごい!」
長男「すごいだろ〜?」
母 「すごいすごい! ほんとにすごい!!」

ばかばかしいと思っても、徹底的にほめてあげましょう。

4.

相手が気持ちを変えて良い行動に移ったときには、追求せずにほめる。

例)

母 「ちょっとお手伝いして」
長男「え〜、今ビデオ見てるんだけど」
母 「ビデオなら後でも見られるでしょう。手伝ってったら」
長男(不承ぶしょうビデオを止めて手伝いに立つ)
母 「ありがとう〜。言うことを聞いてくれて、すごく嬉しいよ」

NG

「そんなにイヤそうな顔をしないの! 6年生にもなって手伝いくらいできないの? だいたい、あんたはビデオやテレビを見る時間が長すぎるのよ・・・」


 
●付記

 いくらほめることが良いといっても、親の気持ちに余裕がなければ上手にほめることはできません。疲れているとき、体調が悪いとき、精神状態が不安定なときなどには、無理に実践しようとしないで、明日元気になったところで、またスタートしましょう。

 PDD(広汎性発達障害)などを抱える子どもの場合、ほめられたり注目されたりすること自体が負担に感じられることがあります。そういうお子さんには、PT(ペアレント・トレーニング)をそのまま使うことはできないかもしれません。お子さんの反応や様子をよく観察して実践してください。



付記に書いたような、中田先生の注意を聞きながら、トレーニングの時間は終了しました。
1カ月間、お子さんをほめてみてください、という宿題付きです。
次の回に集まったときには、具体的にどんな行動をどうほめたのか、その結果どうだったのか。うまく行った例、行かなかった例をお互いに話し合うことになりました。

たいがい「うまくほめられなかった」という意見が多く出るので、そういうとき、同じ立場の親同士が話し合い、どうしたらよいか一緒に考え、励まし合っていくことが大事なのだそうです。
誰かが落ち込んでも、別の人がそれを支えていける。そうやって互いに支え合うことができるからこそ、PTはグループで行うことが大切なのだとか。


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このレポートは、福島ADHDの会『とーます!』(現 発達障害支援の会『福島とーます!』)で行われたペアレント・トレーニング学習会の内容を、朝倉が個人的にまとめたものです。
レポートに関する質問等は、メールにてお受けいたします。

朝倉玲  
ley@nifty.com  



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