ADHDの子どもへの対処法を考える
 〜ペアレント・トレーニング2回目より〜
無視:ほめるために待つ

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さて、3つに整理した子どもの行動のうち、「してほしい行動」に関しては、ほめる(注目する)ことで増やしていく、というのが前回の内容でした。
忘れちゃっている方は、1回目の内容をご覧になって、しっかり思い出してから、今回の内容に進んでくださいね。


今回はいよいよ、「してほしくない行動(望ましくない行動)」を無視によって減らしていく、という内容です。

おっとっと、でも
「あら、じゃあ、してほしくない行動は無視すればいいのね」
なんて早呑み込みして、いきなり子どもをシカトしたりしないでくださいよ。
間違った無視をすると、子供さんの状態が前より悪くなるかもしれません。
無視とはどういうことなのか、その目的はなんなのか、レポートをしっかり読んで理解してから、実践を始めてくださいね。お願いします。
私も、できるだけ分かりやすいレポートになるように、精一杯がんばってまとめますので。




1.無視の意味

人は注目されるのが好き。注目された行動は増えるし、逆に無視された行動は減っていく。
無視とは、注目を取り除くこと、つまり、注目するのをやめることである。


【無視のポイント】
 子どもを無視するのではなく、子どもの行動を無視します。ですから、その子が望ましくない行動を止めたとたん、こちらも無視するのをやめます。
腹が立っていたので、子どもが「ごめんなさい」と反省しても無視し続ける・・・というのは、気持ちは分かるけれど、やめましょうね。(^o^A 

無視によって相手がその行動を止めて、望ましい行動を始めたら、即座にほめます。無視というのは、ほめるためのタイミングを待つということです。



2.無視に伴う問題

 子どもは無視されると、確かめの反応を起こす。つまり、前よりももっとひどい行動をするようになる。

【ターゲット行動を決めて、無視を徹底する】
 無視したら、子どもがもっと悪い行動をするようになった。・・・よくあることですよね。(苦笑)
これを「確かめの反応」と言うそうです。
でも、それに対して、こちらが適当に無視したりしなかったりすると、かえってその行動を増やす結果になります。
無視をするなら、徹底的に無視を続けます。

ただし、すべての行動を無視するようなことはしないで、減らしたい行動をきちんと決めて(ターゲット行動)、その行動だけを無視するようにします。
また、望ましくない行動の中には無視してはいけない行動というものもあるので、見極めには注意します。(→「無視して良い行動かどうかを見極める」参照)



3.子どもの行動から注意をそらす方法

・顔を他に向ける
・話題を変える
・冷静に同じことを繰り返して言う(ブロークン・レコード方式)
・他のことに集中する
・視線を合わせない(見て見ぬふりをする)
・注意をそらすことを子どもに伝える 例)「お母さんは話を聞きません」と宣言する


【上手に注意をそらす】
 子どもが望ましくない行動をしているときに無視を続けるのは、実は精神的にかなり大変です。
子どもの行動に注意を向け続けていれば、だんだんこちらもイライラしてきて、最後には特大の雷を落とすことになってしまいます。そうしたら、「無視」は失敗です。(^_^;)
上のような方法で、子どもの行動から上手にこちらの注意をそらしましょう。



4.注意をそらすときに意識すること

 :視線を他に向ける
身体:子どもの方を向かない
 :無関心で普通の表情(ポーカーフェイスですね)
 :普通に穏やかに。舌打ち・ため息は注目していることを伝えてしまうので、厳禁。   
タイミング:望ましくない行動が始まりそうになったら、すぐに無視を始める。


【ポイント】
 このうちの「タイミング」というのは、あらかじめ、望ましくない行動が始まりそうな時を予測しておく、ということ。
いつも同じようなパターンで始まるので、予測がつくことも多いですよね。
あっ、またいつもの困った行動が始まりそうだな、と思ったら、即座に無視を始めます





実践  「無視の練習」
1.

我が子の行動の中の「してほしくない行動」(望ましくないので、これから減らしていきたい行動)を紙に書き出す。できるだけ具体的に。

2.

「代わりにしてほしい行動」を「してほしくない行動」のわきに書き出す。

3.

「代わりにしてほしい行動」が子どもにできることかどうか考える。(無視して良い行動かどうかを見極める

4.

してほしくない行動の中からターゲット行動を選び(3つ以内)、その行動が出てきたらすぐに無視をする。子どもがその行動をやめて望ましい行動を始めたら、即座にほめる。
ただし、望ましい行動は3.にあげた「代わりにしてほしい行動」と一致していなくても良い。

5.

月日、子どものした「してほしくない行動」「次にした望ましい行動」「どうほめたか」を表に書き出していく。これを1カ月間続ける。

  →「無視の練習」の成果参照



【重要】 無視して良い行動かどうかを見極める

 子どもが起こす「望ましくない行動」が無視して良いものかどうかは、次のようにして見極めて下さい。

1.

望ましくない行動は、実際に子どもが行動していることですか?

 →YES2.へ進む
 →NO 

行動を「しない」ことが問題ならば行動を起こすように働きかけ、行動が出てきたらすかさずほめます。

例)

子どもがトイレから出たあと、ハンカチで手を拭かない。

 一見困った行動のように見えますが、手を「拭かない」のですから、子どもは実際には行動していません。
このようなものは、いくら無視して待っていても行動は出てきません。
この場合は、こちらからハンカチを使うように声をかけたりし、子どもがハンカチで手を拭いた瞬間に「えらいね〜、ちゃんとハンカチを使って手を拭けたね」などとほめることで、自主的に手を拭くようになることを目指します。


2.

望ましくない行動の代わりにしてほしい行動を思い浮かべます。
その行動は、本人の身についている行動ですか? 本人にその行動ができるだけの能力が育っていますか?

  →YES3.へ進む
  →NO 

望ましい行動が身についていないのであれば、無視していても効果はありません。
望ましい行動ができるための手助けの方法を考えます。

例1)

食事の時におかずを手づかみで食べる。(箸で食べて欲しい)

 これは、うちの昇平の例です。
彼は一見箸がちゃんと使えているように見えるのですが、よく観察してみると、箸の持ち方が少し変です。
右手の中指が上の箸ではなく下の箸を押さえているために、箸がうまく動かず、またきちんと力も入らないので、おかずが上手に挟めません。その結果、箸で挟んで食べるのがじれったくなって、ついつい手が出てしまうのです。
こういう場合、手づかみで食べることを無視しても問題は解決しません。というわけで、我が家では目下、正しいお箸の持ち方で食べる特訓中です。(^_^;)

例2)

子どもが分かり切っていることを何度も親に質問する(一度答えを言ったら、それで納得して欲しい)

 分かり切った答えを何度も確認するのは、子ども自身に不安がある場合が多いので、それを無視してしまうと、子どもはますます不安になり、いつまでも質問が続きます。
まず子どもを安心させることが一番なので、きちんと子どもに向き合って対応して上げることが必要です。

例3)

食事中、イスをガタガタうるさく鳴らす(落ち着いて座って食べて欲しい)

 ADHDの特性から来る多動なので、これも無視しても少しも変わりません。
目標時間を決めて、それまでイスに静かに座っていられたらほめる。イスの下に音を防ぐマットなどを敷く。割と無意識のうちにガタガタやっていることがあるので、声をかけて、自分の行動に気がつかせる・・・などその子に合わせて方法を探してみます。
でも、特性から来る問題の場合、どうしようもないことも多いです。本人の成長を待つ、仕方がないこととあきらめる、時にはお薬の助けを借りる必要がある場合もあります。


3.

自分がしている行動が良くない行動だと、自分で分かっていますか?

  →YES「無視」を実践しても大丈夫です
  →NO それが良くない行動だということを本人に分からせます。        

例)

兄の友だちを「○○」と呼び捨てにする。

 これも、うちの昇平の例です。
お兄ちゃんの友だちを自分の友だちのように感じていて、6つも年上なのに「くん」も「さん」も付けずに呼び捨てします。
本人はそれが良くないことだなんて気がついていません。お兄ちゃんの友だちも、みんな優しいので苦笑いで許してくれますが、人によってはとても気分を害して怒り出すでしょう。
これはやはり無視するのではなく、「人を呼ぶときには『くん』や『さん』をつけること。特に年上の人にはそうするべきなのだ」と教えていくことになります。

なお、この「無視して良い行動かどうかを見極める」は、ペアレント・トレーニングの学習会での話と、個人的に中田先生に質問して聞かせていただいた話を総合して、朝倉が作った項です。ご了承下さい。



レポート 「無視の練習」の成果

我が家では、次の2つのことをターゲット行動にしました。( )内が代わりにしてほしい行動。

夜、布団の中で本の読み聞かせをするときに、話を聞かずに部屋をうろうろしたり、勝手な遊びを始めたりする。(布団に入ってお話を聞く。)

自分の思い通りにことが運ばないと、親に向かって「このやろう」「やっつけてやる」などと悪口を言う。(むしゃくしゃしても、親に悪口を言わない。)

実際の行動と無視した結果などを書いた表は、こんなふうになっています。

月日してほしくない行動次にした望ましい行動どうほめたか
3/2本を読んでいる最中におもちゃ箱のところへ行って遊び始めたあわてて戻ってきて「(本を読むのを)やめないで」と言った。布団に入るのを待ってから、また本を読み始めた。
3/3本を読んでいる最中に別な絵本を見始めた自分の読んでいた絵本を閉じて、向こうに押しやったすぐに本のつづきを読み始めた。
3/5ゲームをやめてお風呂に入ろう、と言われたら「このやろう」「バカやろう」と言った「もう言わない」「ごめんなさい」と言って、一緒に風呂場についてきた無視するのをやめて「はい、えらいね」と言った。

 本の時には、私はほめことばをほとんど使いませんでした。
「ほめる」とは言うものの、必ずしもほめことばを使わなくても良いことは、1回目のレポートにも書いたとおりです。
「あなたの良い行動をちゃんと見ていますよ」というメッセージが子どもに伝われば、それで良いのです。


約1カ月間実践してみて

確かに効果がありました!
読書タイムでは、いまだについつい勝手なページを見てしまったり、お話を無視して勝手なことを始めてしまいますが、母が読むのをやめただけで、すぐに気がついてまた本に集中します。
悪口も最近は少なくなってきました。
本の読み聞かせがうまく行くようになってきて、昇平のお話を聞く力も伸びてきたような気がしています。嬉しいおまけです♪



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このレポートは、福島ADHDの会『とーます!』(現 発達障害支援の会『福島とーます!』)で行われたペアレント・トレーニング学習会の内容を、朝倉が個人的にまとめたものです。
レポートに関する質問等は、メールにてお受けいたします。

(2002年3月14日)  

朝倉玲  
ley@nifty.com  


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