昇平てくてく日記2

小学校高学年編

【新刊紹介】「自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく」・その2

2月14日付の記事で紹介した『自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく』が手元に届き、読了した。
第一感想……「もっのすごく、面白い!!」
わはは、と笑い出すような面白さと言うより、興味深い面白さだ。
 →目次

アメリカでのIEP(個別教育プログラム)の現状報告、日本で進むべき特別支援教育の方向性に関する考察、日本で現実に行われている特別支援教育の現場レポート……。
それが、トニママこと仲本博子さんという、アメリカで自閉っ子を育てているお母さんの目と、当事者のニキ・リンコさん、そして元定型発達児代表で、今回の本のコーディネーターでもある、花風社の浅見社長という取り合わせで語られている。
その視点は、今までの特別支援教育のレポートにはなかったものだから、非常に興味深くて、本当に考えさせられる。

ちなみに、私が書いているこのてくてく日記も、主に「ちょっとティーブレーク」というコーナーで紹介されている。
自分が書いた文章なのに、活字になったのを見ると、なんだかよその人が書いたものみたいで変な感じ……という自分自身の感想は脇に置いておくとして。(笑)
うちの日記は、主に「日本でも、具体的にこんなふうに担任と協力して特支教育を進めているケースがありますよ」という事例に使われている。いや、それは、まったく嘘でも何でもないことなのけれど。
でも、その私が読んでさえ、トニママが語るアメリカでの発達障害に関する対応やIEPは、「うらやましい」の一言に尽きてしまう。日本でこれが実現してくれれば、どんなに良いだろう、と本当に思う。これができるようになれば、どれほど大勢の親と子が救われて、前向きな希望を持って生きていくことができるようになるだろう。
だけど……それは、ただアメリカの真似をするだけでは、うまく実現してはいかない。
この本が一番訴えたいことは、そのことなんだろうな、と読みながら思った。

   ☆★☆★☆★☆

この本の中でも繰り返し語られるけれど、アメリカという国は、フレンドリーでありながら非常に厳しい世界だ、と私も思っている。
とにかく、自己主張ができなければ、うまく生き抜いていくことができない。
私も独身時代、仕事がらみで二度、それぞれ3週間ずつアメリカにホームステイをしたけれど、そこで見てきたアメリカは、従来の日本で憧れを持って語られていたほど自由で公平な世界ではなかった。

ちゃんとした構えの店で買い物をして、50ドル紙幣を出す。ところが、現地では50ドル紙幣はめったに使われない上に、20ドル紙幣にそっくりなデザインをしている。どうせ日本人は気がつかないだろう、ということで、店員は「20ドル紙幣と勘違いしたふり」をして、20ドルで計算しておつりをよこし、ちゃっかり50ドル紙幣と自分の20ドル紙幣を交換してレジの中に入れる。実際に二度、経験したことだ。
目の前に客本人がいて見ていても、客が「私が渡したのは20ドルではなく50ドルだ」と主張しなければ、それはこちらの負けになる。(ちなみに一度目は私が「負けた」。二度目はしっかり抗議して、50ドル分のおつりをもらった。)
現地で交通事故に遭った時、駆け寄ってきた運転手に日本人はつい「迷惑をかけて申し訳ない」というニュアンスで "I'm sorry(アイムソーリー)"と言ってしまう。けれども、それを言ったために、「この人は自分が悪かったと自分の責任を認めた。だから、私には責任がない」と加害者が主張することになり、訴訟にまで持ち込まれたというのは、よく聞く話。
その他にも、言わなければやってもらえないこと、主張しなければ手に入れられないことが、アメリカでは日常的に山ほどある。

こんなものも目にした。
私がステイしたのは、とても日本人に理解のある、優しく気の良い老夫婦の家だったけれど、いつもニコニコしているお父さんが、ある日、自分のライフルを取りだしてながら言ったのだ。
「これは猟に使う銃だよ。でも、もしも我が家に悪漢がやってきたら、私は家と家族を守るために、これでそいつをズドン! と撃つんだ」
と、まったく当然のことのようにライフルを構えて、銃口を庭先に向けて見せる。
それを見た時、アメリカとは何と厳しい国だろう、とつくづく感じた。
確かに自由は多いかもしれない。でも、そのために常にものすごく厳しい競争と戦いを繰り返している国。
「自分で自分を守らなければ、誰も自分たちを守ってはくれない。」そんな厳しいスタンスで成り立っている国。
私にはそう見えた。

   ☆★☆★☆★☆

当然、アメリカと日本では気質も体質も違う。風土というのか、とにかく、人間と社会の質がかなり違っている。
その日本の教育界に、アメリカで発達してきた特別支援教育体制やIEPの、どの部分を参考にし、どの部分に日本らしさを生かしていくべきか。
この本を読むと、そのことを、つくづくと考えさせられてくる。

今、日本の教育界は特別支援教育の夜明けを迎えている。その時期にこの本が生まれてきたことは、非常に意義があることだと思うし、この本を通じて考えなくちゃならないことは、本当にたくさんあると感じた。
日本らしい、日本の良さを生かした特別支援教育が、ぜひとも実現していくために。
様々な分野の人たちが、一人でも多くこの本を読んでくれることを、心から願っている。


『自閉っ子、深読みしなけりゃうまくいく』
 ニキ・リンコ+仲本博子著/花風社/1,500円(税別)
 http://www.kafusha.com/shinkan/shinkan.html


[06/03/01(水) 10:16] 療育・知識 発達障害

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