昇平てくてく日記2

小学校高学年編

中学入学を見据えて

3月になって日差しが柔らかく暖かくなってきた。まだまだ寒い日は多いけれど、それでも、確実に季節は春に移り変わっている。昇平もあと1ヵ月で5年生。いよいよ本物の高学年の仲間入りだ。

さて、この時期を迎えてそろそろ気になってくるのは、やはり中学校のことだ。
先日の親の会の定例会でも、同じ中学に行くことになっている現5年生のTくんのお母さんと、その話題になった。ちなみに、このTくんというのが、先日の「通級と固定級を考える」に登場していた、5年生の通級の子。ゆめがおかに国語と算数を学びに来るようになったら、他の授業や生活でも本人に自信や積極性が出てきたそうで、すごくよい感じなのだと、お母さんもとても嬉しそうだった。
「わかる」ということは、本当に大事なことだと思う。学校の目的や役割は数多くあるけれど、その中でも一番大事なのは、やっぱり勉強が「わかる」ようになることであり、何かが「できる」ようになっていくことなのだと思う。「勉強は塾に任せてますから、学校は生活面の指導をお願いします」という保護者も都市部にはけっこういるのだと聞くけれど、やっぱり、学校の本分は「勉強」だと私は思うから、そこだけはプロの指導機関として、絶対に譲らないで欲しいな、と思う。
……おっと、脱線。

とにかく、子どもは勉強が「わかる」ようになると、勉強以外の生活面でも絶対に変わってくる。自信が出て、明るく積極的になってくる。
そんな子どもたちの変化を見ると、「わかる学習」は本当に大事だ、とつくづく思う。もちろん、だからこそ、私たちは昇平をゆめがおかに入級させたわけだし、Tくんのご両親も、Tくんをゆめがおかに通級させているのだけれど。
小学校では、そんな感じで最後までうまくいくだろう。けれども、中学校では?
幸い、昇平たちが行く中学校にも、特別支援学級(特殊学級)はある。昇平は生活での支援が多く必要な子だから、中学でもそこに籍を置く可能性が高い。T君のお母さんは、引き続き通級で学習面の支援をしてほしいと考えている。そこさえフォローしてもらえれば、Tくんは普通学級で充分伸びていけるお子さんだから。
でも、現在、その中学校で通級は行われていない。中学校独特のシステムのために、通級が実施しにくい状況にあるのだ。

中学校独特のシステム……それは、教科担任制。
中学になれば、教科内容もぐんと深まり、難しくなってくるので、その教科を専門におしえる先生が、時間ごとに教室にやってきて生徒たちに授業を行う。当たり前のこととして、何十年も前から行われてきたこのシステムだけれど、例えばこういうことになる。
国語の習得に困難のある子で、その時間だけは個別に指導を受けたい子がいる。その子が別の特別支援教室へ通級に行って、そこで、その子のレベルに合わせた国語の授業を受けられれば問題はない。でも、その時間、国語教師は母学級で国語の授業を行っている。「誰が」その時間、その子に国語を教えるか? ちょうど時間的に空きがある国語教師がいて、時間のやりくりがつけば良いけれど、やりくりがつかなければ、「いったい、どうやって」その子に学習支援をするか、という話になる。「現状ではとても無理です」ということになってしまうだろう。
また、たとえ空きがある先生がいたとしても、その先生が特別支援教育に明るくない先生だったりすれば、やっぱり学習支援は難しくなるだろう。「わかる」授業を行うということは、はたで考えるより、ずっとずっと難しいことだから。だからこそやり甲斐がある、と考えてくれる先生なら良いけれど、先生全員がそう考えるわけではないし。

中学校には、子どもと関わる先生が大勢いる。これが、もうひとつの中学校独特のシステムであり、特別支援教育を行っていく上で、なんとかしていかなくてはならない課題でもある。
小学校では、担任に理解してもらえば、うまくいくことが多い。担任が変わったり異動になったりすると、一からまたやり直しになったり、うまく行かなくなったりということが起こるから、学校全体で理解してもらった方が絶対に良いには違いないけれど、でも、とにかく、担任さえわかっていれば、とりあえずは本当になんとかなる。
でも、中学校ではそうはいかない。国語、数学、理科、社会、英語、美術、音楽、体育、技術、家庭、それにクラブ活動……ざっと数えただけでも、一人の子どもに10人以上の先生が関わる。それに反比例して、担任が子どもに関わる時間は非常に短くなる。担任だけに理解してもらえばなんとかなる、という考え方は、もう中学校では通用しない。学校ぐるみの理解と支援が、どうしても必要になってくるのだ。
どうやって、先生方に「この子」のことを知ってもらうか。
私が得意とする連絡帳も、まさか10人もの先生相手には書けない。
特別支援学級に入れば、担任が普通学級以上にトータルで目配りしてくれるはずだから、そういう意味では安心度は高いけれど、それでも、やっぱり学校全体への理解と支援の呼びかけは、絶対に必要になってくると感じている。

大勢いる先生方に、どうやって理解して支援してもらうか。
教科担任制というシステムの中で、どうやって「通級」を実施してもらうか。
定例会でそんなことを漠然と話し合いながら、Tくんのお母さんが言った。
「でも、うちの子は通級を始めてから本当に変わったの。だから、親である私も、ここでがんばらなくちゃ、って思うのよね」
本当はこういうことは苦手なんだけどね、と笑いながら言う彼女を、いいなぁ、とすごく思った。
子どものためになんとか道を拓きたい。その想いがこれまでの特殊教育への道を切り拓いてきたのだろうし、これからの特別支援教育の方向を作っていくのだもの。
うちはTくんの1年後に中学入学になるけれど、後についていくだけじゃだめだね、やっぱり。今から、できることから、働きかけていかなくちゃいけないのだわ。
Tくんのお母さんが中学校を見学に行く時には、私もぜひご一緒させてもらおうと考えている。

Tくんのお母さんも言っていたように、私たちの子どもたちは、できあがった特別支援教育の体制に上手に乗っかってここまで来た。
でも、中学校ではたぶん、こうはいかない。私たちが、学校と協力しながら作り上げていかなくちゃいけないのだろう。対立ではなく連携。先生たちと出せる力を出し合って、話し合って、子どもたちが「わかる!」と実感できる中学校作りをしていけたらいいな、と、すごく考えている。
そのためには、まずできることから。
特別支援教育ガイドラインが文科省から出された時、柘植調査官が講演で言われていたことばを、今改めてかみしめている。

[06/03/06(月) 10:21] 学校 発達障害

[表紙][2006年リスト][もどる][すすむ]