昇平てくてく日記2

小学校高学年編

一人暮らしへの道

今朝のこと。

昇平は、最近、朝食後の10分、15分という時間でパソコンのゲームをするのが好き。それがやりたいばかりに、(彼にしては)素早く着替えをし、(彼にしては)せっせと朝食を食べ、二階に上がって、学校へ出かけるまでパソコンに向かう。まあ、それで朝のさまざまなことがスムーズに進むので、母としても、やることをやれば時間まではよし、と認めているのだけれど。
でも、よく見ると、いや、よく見なくても、昇平が向かうパソコンデスクの周りは散らかり放題。前日に食べたおやつの空箱や包み紙が散乱し、パジャマが脱ぎ捨てたままになり、制服を外したハンガーが椅子に踏まれそうになっている。いつもの風景と言えばそれまでだけれど、本当にだらしがない。ゴミを拾い集めて近くのゴミ箱に捨てながら、思わずため息をついてしまった。
「ほんとにねぇ〜、昇平くんは将来、お母さんがいなくてもちゃんと一人暮らしできるのかしら?」
昇平、ん? という表情でこちらを向いて
「ちゃんとできるよ」
と答えた。
「でもね、ほら、見てごらん。パジャマは脱ぎっぱなしだし、ゴミは散らかしっぱなし。一人暮らししたら、ゴミに埋もれてどうしようもなくなっちゃうんじゃないの?」
「だーいじょうぶ! ちゃんとできるようになるって!」
……キミのその自信は、いったいどこから来るんだ?

「それじゃあね、今から少しずつでいいから、ちゃんと片づけるように練習しようね。大人になってから急にできるようにはならないんだから。……まずは、パジャマをパジャマ袋にしまって、ハンガーをフックに戻すところからかな」
いっぺんにあれもこれも要求したって無理だから、まずは小さいことから、できそうなことから。
昇平、椅子から立ち上がって足下のパジャマをかき集め、パジャマ袋にぎゅうぎゅう詰め込んだ。彼の行動は、一事が万事「雑」だから、パジャマの袖がパジャマ袋からはみ出している。でも、とにかく、自分でしまうことが大事だから、その辺には目をつぶる。しまえと言われたことに腹をたてて、それで雑になっているわけじゃないんだものね。あやや。パジャマ袋の紐を片方、フックにかけそこねた。昇平は気がついていない。うむむ……それでも、ちゃんとかけたんだから、偉いとしよう。(苦笑)
昇平がそれで満足して、またパソコンに戻ろうとするので、声をかけた。
「他にもやることがあったんじゃなかったっけ?」
「え、なにかあった?」
ハンガーをフックに掛ける、という方は、まったく耳に入っていなかったらしい。うーん、キミに普通の指示で一度に二つのことをやらせようとしたのがまずかったのね。はいはい、母が悪ぅございました。(苦笑)

さて、もう時計は学校へ行く時刻。昇平はパソコンを終了させ、学童での着替えを入れたバッグを手に持ち、学校で工作に使うんだ、と言って空き箱と割り箸を持った。材料がバラバラになりそうなので、あわててビニール袋に入れてやった。
帽子をかぶり、張り切った足取りで階下へ向かう昇平。その後をついていきながら、ふと、違和感を感じた。なんだか昇平がいやに身軽だぞ……?
昇平はランドセルを背負ってなかった。
でも、本人は全然気がつかないまま、祖父母に「行ってきまーす!」と元気に挨拶して、玄関を飛び出していった。私はあわてて部屋に引き返し、デスクの隣の棚から昇平のランドセルを引っ張り出した。出がけにパジャマを片づけるという「大仕事」をしたから、ランドセルのことをすっかり忘れちゃったんだね。

「忘れ物だよー」
と昇平の後を追いかけながら、私は苦笑いを止められなかった。
自分の好きなことには次々目が向いて夢中になるけれど、それ以外の部分には、とんと目がいかなくなるキミ。あわただしくて、落ちつきがなくて、雑で元気で明るくて……。
そんなキミの一人暮らしへの道のりは長いから、母も長期計画でつきあっていくしかないんだよね。
いつか、キミが母から独立して、一人の大人として生活できる日が来ることを、二人で夢見ながら……ね。(笑)

[06/03/15(水) 08:55] 日常 発達障害

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