昇平てくてく日記2

小学校高学年編

思い出文集〜インクルージョンを考える

昇平たち4年生は、5年生に進級する際にクラス替えがある。昇平も2年間一緒に勉強や活動をしてきた4−3のお友だちとバラバラになる。なので、それを前に、4−3の全員で思い出文集を作った。
……とまあ、これはどこの学校でもやっていることなのだけれど、昇平が持ち帰った文集を見て驚いた。分厚いクリアファイルだ! 中を開いたら、見開き2ページを一人分にして、左側のページにその子の写真と、好きな食べ物やテレビ番組、思い出ベスト3、将来の夢やメッセージなどの肉筆原稿(を印刷したもの)、右側のページには、パソコンを使って入力した四年生の思い出の作文が入っている。す、すごい!!
どのページを開いても、子どもたちひとりひとりがどんな子だったのかが、すごくよく伝わってくる。こんな時に幸せを感じるよ、将来の夢は、クラスのみんなに一言……そんなコーナーに、その子らしさがにじみ出る。
 将来の夢:「プロ野球選手」「マンガ家」「大金持ち」「やさしいお母さん」
 クラスのみんなに一言:「5年生になっても友達だよ」「これからもよろしくね」「健康第一」「勉強しろー!!『まあ、あんまりやってないけどね』」なんてのも。
とても子どもらしい、しかも茶目っ気のある子どもたちの声が聞こえてくる。
そして、昇平も含めて、写真に写っている子どもたちの顔がすごくいい。とても伸びやかで明るい顔、顔、顔……。

学校公開で4−3を見学に行った時、なんてクラス全員がのびのびと明るい顔をしているんだろう、と思った。人前で堂々と自分のことを話せる子どもたち、それを楽しそうに聞いているクラスメートたち。終わりの会の後、それを担任の弓子先生に話したら、「このクラスの子たちは芸達者揃いなんですー」と嬉しそうにニコニコしていた。子どもたちの姿をありのままに楽しんでいるのが、その表情とことばから読み取れて、とても嬉しい気持ちがした。
そんなクラスだったからこそ、時々、いや、しょっちゅう怒ったり、わがまま(に聞こえるようなこと)を言ったりやったりする昇平も、クラスの同じ仲間として、受け入れていてもらえたんだな、と感じたから。

協力学級に勉強に来ることになっているから、先生に言われているから、障害がある子には優しくしてあげなくちゃいけないから――。そんなあきらめや同情は、4−3にはなかったように思う。昇平は当たり前に同じクラスメートだった。もちろん、昇平はゆめがおかに籍があるから、完全に同じクラスメートというわけではないし、なにかと人目をひく騒ぎを起こしやすい子ではあったけれど、それでも、自分たちと一緒に勉強して、(学童までの道を)下校する、クラスの仲間……とみんなが見てくれていた。「ちょっと面倒を見てあげることが多いクラスの一員」 そんな受け止め方だったような気がする。
その様子を、様々な場面で聞かされて、本当にありがたいな、嬉しいな、と思ってきたのだけれど、今、改めて思い出文集を見た時、やっぱりこのクラスはすごい、と感じてしまった。
自分らしさを存分に発揮して作り上げた文集は、彼らがどんな子どもたちだったか、はっきり伝えていた。一人ずつが本当の意味で主人公だったクラスだ。それがお互いに認めあえたクラスだったからこそ、昇平も、その中でやっぱり主人公でいられたんだ。

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インクルージョンということばを、時々考える。
「普通」の子どもたちの集団の中に、障害ある子を入れて、共に育てていく、という考え方だ。
これはとても大事なことだと思うけれど、受け取り方や解釈のしかたで、いろいろ問題も起きやすいことなので、難しいな、と思うことも多い。
基本的には、私はインクルージョンは絶対必要だと思うけれど、だからと言って、昇平が普通学級でなく特殊学級にいることを「差別」「インクルージョンに反する対応」だとは感じない。むしろ、彼をぽんと普通学級に入れてしまって、「あとは自分の努力でなんとかしなさい」と言うことの方が、本人の困難を無視した「差別」だと思うし、そんな形だけのインクルージョンならばいらない、と本気で思う。
子どもは「普通」の集団の中で! と声高に叫ぶ人々に出会うこともある。でも、その話を聞いていて、本当にその子自身の特性や困難を考えた上で言っているのかな? と首をひねることも多い。「普通」の中に「いる」ことにステイタスを感じていて、そのことで障害への免罪符を得ようとしているように聞こえてしまうのは……私のひがみかな?(苦笑)

インクルージョンというのは、実は、そんなに力を入れて実現しなくちゃならないことでは、ないんじゃないかな、とずっと考えている。
その子の特徴や困難を認め、どうやったら一緒に楽しく過ごせるだろう、と考える力は、むしろ、大人より子どものほうが豊かだ。理屈ではなく、実際の生活の中で、「ああしよう」「こうしよう」と考えるから。大人たちが子どもたちの理解を助けて、適切な方向を示すことさえできれば、子どもたちは本当に素直に柔軟に、「その子」を受け入れてくれる。
でも、そのために必要なのは、「あの子は障害があるからかわいそうなんです。だから、優しくしてあげようね」と、子どもたちに言い聞かせて、説得することではないと思う。「君たちも一人ずつが違っているよね。違っていることは素敵なんだよ。自分らしさを大切にしようね。あの子はその中でも特に違っていることが大きいけれど、やっぱり、それはあの子らしさなんだよ。だから、あの子も他のお友だちも、みんな大切にしていこうね。君たちが自分自身を大切にするように――」と、繰り返し話して聞かせることなんじゃないかと思う。
子どもたちが自分自身を大事にしていけるクラスを作ることが、結局は、本当の意味でのインクルージョンも実現していくんじゃないだろうか。
4−3の子どもたちを見ていて、私はつくづく、そう感じている。

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長くなるけれど、最後に、文集に昇平が書いたことを載せておく。
作文などは、ドウ子先生と一緒に書く内容を話し合ったけれど、ことばそのものは自分で考えてパソコンに入力していったらしい。「手で書く時よりもパソコンのほうがスムーズなくらいでした」とは、ドウ子先生の話。

☆朝倉昇平

好きな食べ物・・・ハンバーグ
好きな教科・・・ずこう
好きな遊び・・・ポケモンカード
好きなテレビ番組・・・IQサプリ
好きなタレント・・・レギュラー
今、欲しいものは・・・ポケモンカードガム全しゅるい

こんなとき幸せを感じる・・・パソコンのゲームをしているとき
クラスのみんなに一言・・・「いっしょにあそんでくれてありがとう」

思い出ベスト3
 第一位 学習発表会 みんなで組み体そう
 第二位 水泳大会 流れるプール
 第三位 なわとび大会 がんばったよ

将来の夢
 インターネットでホームページをつくること。


作文
「四年生でがんばったこと」 朝倉昇平

 ぼくが、四年生でがんばったことは、一つ目は、こてきの練習です。
 ぼくは、最初は、けんばんハーモニカは、まだひけませんでした。できなくってプンプンおこってしまいました。Dくんに教えてもらいました。それから少しなれてきました。そして、校歌がひけました。今では得意なところは全部です。好きなところは「ソラシ〜ドシラシ〜。」っていうところです。
 次はNO MORE CRY です。初めて聞いたら、ワケわからない音楽でした。でも、なんか聞いた音楽だった気がしました。練習してたらなんかうまくなりました。ゆめがおかではポイント通帳で練習しています。一回やるとポイントが一つもらえます。今、213ポイントあります。100ポイントたまると、パソコンが15分できます。だから、300までがんばります。
 がんばったことの二つ目は、なわとび大会です。一番がんばったことは種目とびです。ぼくは、一分以内に80回以上とびました。持きゅうとびでは、なんか16分30秒でがんばった人は、Jくんでした。そして、跳び終わったら、Jくんにタッチしました。ぼくは、こんな時間をとべる人はいない、と思っていました。
 長縄もおもしろかったです。Kくんにおしえてもらってとべてお礼を言いたいと思います。Kくんのおかげで、ぼくもとべたと思います。ぼくが最後に思ったことは「どれもがんばったことがいい。」と思いました。
 がんばったことの三つ目は、漢字のまとめテストです。はじめはむずかしいと思ったんだけど、だんだんなれてきました。そして、二学期も三学期も合かくして賞じょうをもらいました。
 どれもがんばってうれしいと思いました。


[06/03/18(土) 05:09] 学校 発達障害

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