昇平てくてく日記2

小学校高学年編

頭痛が続いて感じたこと

 さて、風邪の発熱もすっかり下がって、週明け元気に登校した昇平だったけれど、朝、学校に行ってから、一度だけ「頭痛い」と言っていたらしい。帰宅したときにも、「頭痛いの、治るかな?」と聞いてきた。軽い頭痛がしているということだった。熱はないし、顔つきもそれほどつらそうではなかったので、「久しぶりに学校に行ったから、きっと疲れちゃったんだね」と言って様子を見ていた。
 翌火曜日。やはり元気に学校へ向かう。ところが、十時過ぎにドウ子先生から電話が入った。
「昇平くんなんですけど、朝から頭痛いって言っているんです。それほどひどくはなさそうなんですが、トントン、って自分で頭を叩いて、『頭痛いんだ〜』ってずっと言ってるんですよ。熱はありませんが、顔つきもさえないし、どうしましょうか?」
 前の日、帰宅してから頭痛を訴えていたことを連絡帳に書いておいたので、心配して電話をよこしてくれたのだ。
 その時、私は今まさに病院へ薬をもらいに行こうとしていたところだった。ちょっと考えてから、
「熱がないのであればもう少し様子を見ていてもらえますか? 病院が終わったら、学校に回ってみて、つらそうなときには連れて帰りますから」
 と返事をした。なんとなく、この頭痛は風邪よりも「疲れ」から来ているような気がしたから。
 実際、病院の後で回ってみたら、その時にはもう頭痛もほとんど治まっていたようで、顔つきもかなりしっかりしていた。ただ、母の顔を見て甘え気分になったようで「ぼく、家に帰りたいな〜」と言い出したので、「その顔色なら大丈夫!」と置いてきた。もちろん、頭痛が悪化するようだったら、すぐにまた迎えに来るつもりだったけれど、実際には六校時目の委員会活動までしっかりこなしてくることができた。

 仮病などでは絶対にないのはわかっている。昇平は仮病を使うことができない。例え使っても、あっという間にばれるような、見え見えの仮病をする。なーんとなく頭が痛い、頭が重い。そんな感じだったのだろうと思う。そして、ドウ子先生の配慮で、学級でのんびり過ごしているうちに、それも収まっていったようだった。
 主治医にその話をしたら、「新学期をずっとがんばってきた疲れが、ちょっと出ちゃったんでしょうね」と、穏やかな調子で言われた。心配はいりませんよ、と。
 確かにそうだ。新しい協力学級のお友だち、新しい協力学級の担任、隣の組に来た新しい担任、自分の組に入ってきた二人の転入生。五年生だからがんばるぞ! という気持ちで張り切って過ごしていたけれど、いろいろな部分に疲れはたまってくる。最初は風邪という形でそれが出たけれど、風邪が治ってからも、まだ軽い頭痛という形で、疲れのシグナルが出ていたんだろうね。
 今日から昇平は五連休。ここでたっぷり休めば、きっと、GW明けには心身共に元気になることだろう。

   ☆★☆★☆★☆

 でも、今回、私は昇平が熱を出しても、頭痛を訴えても、本当にほとんど焦らなかった。まあ、普段から、そう言うときにはあまり慌てないたちだけれど、それにしても今回は本当に冷静だった。
 この時期に体調を崩すのは毎年のことだから、もうこちらが慣れてしまったこともある。でも、それ以上に大きかったのは、やっぱり、ドウ子先生との信頼関係が強まったからなんだろうな、と思った。学校を休ませるにしても、がんばって行かせるにしても、ドウ子先生なら大丈夫、昇平の状態をわかっていてくれる、という安心感があったから。
 これは、一年間かけて培ってきた信頼関係なんだろうと思う。阿吽の呼吸じゃないけれど、なんとなく、この先生ならきっとこうしてくれる、という予想が立つし、実際、そんなふうにしてもらえる。もしも、本格的に具合が悪いときには、絶対に無理させるような先生じゃないし、本人がつらいと訴えているときに、怠けているだなんて考えるような先生でもない。だから、大丈夫。本当に具合が悪いときには連絡が来るし、それが来ないからには、きっと大丈夫なんだろう。……そんなふうに思って家にいたし、実際、放課後迎えに行ったら、その通りだった。

 ドウ子先生が「いい先生」なのは、去年初めて会った、その瞬間に気がついた。エネルギッシュで、すごく「目のいい」先生なのも、すぐにわかった。すごいなぁ、面白いこと考えつくなぁ、と感心しながら、ドウ子先生の学級運営を一年間見させてもらってきた。そして、一年が過ぎて、気がついてみたら、「この先生なら大丈夫」と心から安心してしまっている自分がいた。どんなに「いい先生」とわかっていても、こんなふうに感じるようになるまでには、やっぱり時間が必要なんだろうね。
 昇平が熱で遠足に参加できなかったのは残念だった。転入生のIくんたちとの関係は気になるし、これから本格的に始まる運動会の練習やその当日も気がかりと言えば気がかりだ。去年、自分の組が負けて、無関係な女の子を叩くという暴挙に出てしまった昇平だし、今年は鼓笛にも参加するし。だけど……。
 ドウ子先生がいれば、きっと大丈夫。どこかでそんなふうに安心して、落ち着いてしまっている私がいる。
 もちろん、学校にお任せしっぱなし、という意味ではない。でも、今までよりさらにもう一歩か二歩下がったところから、学校でがんばる昇平を見守っていられるような、そんな気持ちになったのは間違いない。
 具合など悪くならないにこしたことはないけれど、昇平が体調を崩したおかげで、そんなことを自己確認できたのだから、まあ、これも悪くはなかったのかもしれない……。
 そんなふうに前向きに考えられるのもまた、「安心感」のおかげかもしれない。(笑)

[06/05/03(水) 13:29] 学校 発達障害

[表紙][2006年リスト][もどる][すすむ]