昇平てくてく日記2

小学校高学年編

夏休みの日記・3

7月23日(日)    晴れのち曇り

 父は仕事で午後1時半まで仕事。昇平「お父さんとプールに行くんだ」と言って帰宅を待ち続けた。遊び相手がなくて退屈しているし、室内でしか過ごしていないので、自転車練習がてら近くのコンビニまで買い物に行こうとしたら、自転車を置いてある倉でじーちゃんが昼寝していたので自転車を出せず、結局歩いてコンビニへ行った。まあ、少し運動にはなったかも。おやつと昼食を買って帰る。
 途中、特産の桃を選果・箱詰めして発送している光景を見る。アルバイトをしている高校生のお兄ちゃんたちも大勢見えたので、「昇平くんも高校生になって、やりたかったら、ここで働くことができるんだよ」と教えたら、今すぐにもやリたそうな様子。そこで、高校生にならないとできないこと、やっぱり試験(本当は面接だな)を受けなくちゃいけないこと、同じ仕事を何時間でも続けてやり遂げられるようになる必要があることは伝えた。面接と根気……実は昇平にとって一番問題になる部分だったりするんだよねぇ。でもまぁ、高校生になった頃に彼がどうなっているかはまだわからないので、今はその程度の話にしておいた。

【今日のお手伝い】
 二階の布団敷き。いつものお手伝い。

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7月24日(月)   雨

 今朝からラジオ体操があるのだけれど、未明から強い雨が降っていて、今朝は中止。ところが、声をかけなかったのに昇平がちゃんと6時半に起きてきた。昨日の日中「明日からラジオ体操だよ」と教えたのを、しっかり覚えていたらしい。レベルアップしたね。
 7時頃、2階で布団をたたんでいたら、パソコンをしていた昇平が半べそで飛んできた。「もう△△には行かない! いっぱい叱られて、もう来るなって言われたから」と訴えてくる。△△というのは、昇平が最近に気に入って出入りしていたお絵かき掲示板。自分で描いた絵を投稿したり、他人の絵に感想を書いたり、という場所。はっきり言って、昇平にはレベルが高いと思える場所だったけれど、ほんの一言でも、ネットの向こうの誰かとやりとりできると昇平が大喜びしていたので、そのまま様子を見ていた……のだけれど、やっぱりこういう展開になってしまったらしい。
 渋る本人に原因を尋ねたけれど、理由は自分でもわかっていない様子。そのお絵かき掲示板の場所を教えてもらって、一連のやりとりを確かめにいったら、今回の書き込みそのものというよりは、これまでの昇平の一方的で配慮のない書き込みや投稿に、常連さんたちがついに愛想をつかしたのがわかった。投稿した絵も「小学生の落書きにしか思えない」と書かれていて……うーん。昇平、あんた、思いっきり年上に思われていたんじゃないの?(苦笑)
 かもねぇ。時々、変に難しいことばを知っていたり、わざと英語を使いたがったりしていたもんねぇ。書き込みも、なんとなく、他の年上の常連さんの言い回しを(表面的に)真似していた節があったし。
 昇平は、親の知らないところで他の誰かとやりとりしていたかったらしくて、私がそこを観に行くのを嫌がっていたのだけれど、やっぱり、こっそりチェックしておくべきだったのね。本人に任せておくのは、まだ無理だったんだわ。
 この掲示板はもっと大きな人たち、高校生や大学生や大人の人たちがたくさん集まる場所だったこと、そんな中に参加するには昇平はまだ早すぎたこと、昇平がもっと大きい人だと思われてしまっていたこと、を説明したら、やっと昇平もある程度納得して、掲示板に「ごめんなさい、もう来ません」と書き込み、今度は小学生が集まるような掲示板に参加する、と言った。とはいえ、そういう場所は場所で、参加者は未熟な子ども同士だから、やっぱりうまくやりとりはできないんだろうなぁ、とは思うけれど。とりあえず、昇平の母と言うことで、その掲示板にはお詫びの文章を投稿しておいた。

 今回のトラブルの原因は、昇平が相手の気持ちを想像することができないこと。言ってみれば、積極奇異型の自閉児が持つ問題そのもの。いままで他人と関わらないでも平気だった昇平が、他人との関わりを求め始めた。その時に生じてきた問題。適切な関わり方がよくわからない。相手と上手にやりとりしていくための情報の集め方がわからない。ただ、掲示板に「ごめんなさい」と書けたように、相手の気持ちを説明されれば、完璧ではないにしても理解できるんだけどね。

 この夏休み、C-SSTの集中講座には申し込んである。そこで他者との関わり方のノウハウや技術は教えてもらってくるだろう。
 だけど、この数日間、一緒にいただけで、私は本当に首をひねってしまう。昇平はそうやって教えてもらったC-SSTの技術を、「どこで」実践すればいいのだろう?
 遊びたい、他の人と関わりたい。だけど、そんな人は周りにほとんどいなくて。いても、少なすぎてタイミングが合わなかったり、上手に関われないために「友だち」とは言えない状態だったり。
 外に出たときに、見ず知らずの子に勝手に関わっていってはいけないことは、歯医者の待合室でも教えた。だけど、その代わりになる「人間関係を経験する場面」を、どこで昇平に与えてあげればいいのだろう?
 これは、昇平が学区外から通っている、という物理的な理由も絡んでいる。
 難しいことばを知っていても、昇平の言語レベルは非常に幼い。逆に、これだけ困難が大きいにもかかわらず、よくここまで会話が発達したものだ、というのが親としては正直な気持ちだ。そんな中で、ゆっくりとだけれど、昇平は他人と関わることを求めだして……
 だけど、親である私たちは、そんな彼に充分な「場」を与えることができなくて。
 昇平に必要なのは、ただ当たり前に一緒に遊ぶ経験。SSTもなにもかも、その上にあるべきもの。だけど、その当たり前の経験が、昇平にはあまりにも少ない。
 夏休みの子ども体験に参加しては、と言われるだろうか? でも、介助がいなければとても参加は無理だし、その集まりに小さい子が一緒に参加していたら、それだけでアウト。子どもが多く集まるところには、小さな子どもの泣き声も多く集まりがちだから。
 学校が違っても、近所の子に声をかけて遊びに来てもらってみたら、と? それができる環境にあれば、こんな苦労はしませんって。(苦笑)
 絵や文字でやりとりできるお絵かき掲示板やオンラインゲームなら、本人にもわかりやすくていいかも、とも思ったけれど、やっぱりそこにも存在する暗黙のルールとマナー。気がつくたびに、親としてもフォローはしていくけれど、彼の中の「他者と関わりたい気持ち」と「それが上手く行かなくて挫折する気持ち」の、どちらのほうが先に上回ってしまうのやら。
 そういえば、最近は「メ○プルストーリー」もすっかりやりにいかなくなってしまったな。あそこで面倒を見てくれていた女の子(多分中学生か高校生)に、ちょっとからかわれたようで、その後まもなく、向こうから年齢を聞かれて「小学4年生」(当時はそうだった)と答えた後、自分からそこには行かなくなってしまった。きっと、なにか感じるものがあったんだね。
 なんとなく……なんとなくだけど、君は君自身をそこで見てもらいたかったんじゃないかな、と考えているんだけどね。きっと、彼女と対等な相手でいたかったんだね。……って、もちろん無理に決まってるんだけどさ。(笑)

 さてと。
 そんなこんなの状況の中でも、前に進んでいくしかないのが現実で。やれること、できることは何かないかと考えてみて、この際、自分のところのホームページに、昇平専用のお絵かき掲示板を作ってやろうと思い立った。
 以前、星空掲示板に昇平自身が少し書き込みをしたことがあったのだけれど、見ていると、やっぱり文字だけでのやりとりは、昇平には負担が大きすぎるようなのだ。絵と文字。この組み合わせだと、(文章は短くなるだろうけど)本人にもやりとりは可能だから。ただ、一方的で配慮のない書き込みになるのは目に見えているから、とても他所ではやらせられないし。ということで、自分ちの中に。(笑)
 その話をしたら、昇平も乗り気になって、「早く作って!」と楽しみにしている。
 とりあえず、絵を投稿できるのは昇平だけの設定にして、見に来た人と文章でのやりとりができるようにしておく。慣れてきて、大丈夫そうになったら、他の人の絵も投稿できるようにして。
 バーチャルな世界に限定されてしまうけれど、そんな形でも、できることをやっていこうね。
 ね、昇平。

追記:
 10時にCくんの家に電話をしたら、今日は大丈夫で、弟くんと二人で遊びに来てくれた。昇平、大喜び。三人で賑やかにゲームを始めている。
 お絵かき掲示板はアサクラ・タウン内に新設したけれど、絵を載せるのは後からになりそうだね。(笑)

追記2(10:30):
 男の子たち、何をやっているのかと思ったら、自分たちが持っている携帯ゲーム機をありったけ集めて「キャラクターごっこ」をしていた。それぞれゲーム機が人格化していて、それぞれの子がセリフを言っていて。ほとんど「お人形遊び」の世界だね。中1、小5、小4の三人組み。このレベルで遊びと話が一致して盛り上がれるってのは、すごいことかも。

追記3(13:45):
 さっき親の会のほうから連絡あり。今回のC-SSTのインストラクターから、現在の昇平の状態では参加が厳しいだろうという判断があり、集中講座のメンバーからは外されるとのこと。う〜ん、やはり上で考察していた通りのことが起こったか。
 残念だけど、しかたないね。こちらとしても、SSTそのもののプログラムに期待すると言うより、少しでも他の子たち、他の人たちと関わる経験をさせたい(できれば専門知識のある人が監督している状況下で)という想いのほうが強かったわけだから。療育プログラムの目的としては邪道だよねぇ。
 日々の生活そのものがSSTではあるわけだけど、様々な条件、状況から、なかなかそれが許されない日々。こうなってみると、学校がいかにありがたい場所かがよくわかるなぁ。

【今日のお手伝い】
 布団敷き。

[06/07/24(月) 10:31] 日常 発達障害

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