昇平てくてく日記2

小学校高学年編

誕生日にピザ作り

Pizza04
 8月26日は昇平の誕生日。
 11年前の今日、昇平は元気な産声を上げた。元気すぎるくらいの声だったけれど、高位破水に気がつかないでいたために、感染症を起こしていて、生まれた翌日から新生児肺炎で小児科病棟に入院、保育器入り。思い出してみれば、生まれたその時から前途多難な子育てが始まっていたよねぇ。
 搾乳した母乳を病棟に運ぶと、誰よりも力強い泣き声が聞こえていた。「あれが昇平くんの声ですよ」と看護婦さんに教えられて、『ああ、あんなに泣けるなら大丈夫だ。きっと元気になってくれる』と心の中で考えたっけ。

 今年、昇平は何日も前からこの誕生日を楽しみにしていた。何がきっかけだっただろう。まだ郡山で家族4人で暮らしていた頃、よくパンやピザを手作りしていたんだよ、という話をしたことから、「ぼくもピザを作りたい! ぼくの誕生日にピザを作ろう!」ということになったのだ。
 昇平は自分にメモや絵入りの作業手順書が有効なのを自分で知っている。
「買い物メモを作ろう!」
「お母さん、作り方を紙に書いて!」
 毎晩のように一緒にメモを書き、作り方を一緒に確認した。スーパーでの買い物も一緒にやった。レシピは、昇平のリクエストでキャラクターのイラストもたくさん入って、なんだか漫画のようになってしまった。

 今朝は朝から楽しみで楽しみで、もう大変。お昼にちょうど間に合うように逆算して、「10時から始めるからね」と言っておいたからよいようなものの、そうでなかったら、朝から何十回となく「まだ?」「まだ作らないの?」と言われただろうな。
 生地の材料を混ぜて、こねて、発酵させてガス抜きして、切り分けてまた発酵させて、綿棒で伸ばして……。
 言われたようにせっせと働く昇平を見て、ふと、まだ2歳の頃の彼を思いだした。ちょうど、頻繁にピザを手作りしていた頃。

 当時、昇平は本当にチョロ助だった。ちょっと目を離したら、もうどこへ行ってしまうかわからない。6つ上に兄ちゃんがいるから、あちこち遊びに連れて行ってやりたかったけれど、そんなわけだったから、外出するのも大変。スーパーに買い物に行っても、一瞬でどこかへ姿をくらますから、買い物に行くのも一苦労。自然と何でも家の中でやるようになった。遊びに行けないなら、家の中で、兄ちゃんの友だちも巻き込んで、一緒にパンやピザを作ったり、子どもたちが摘んできたヨモギで草団子を作ったり。
 その頃、昇平は偏食が本当にひどくて、まともに食べられるものを数え上げるのに両手の指で間に合ってしまうくらいだった。当然、ピザなんかも食べなかった。ただ、母や子どもたちが、ドシンドシンとピザ生地をこね始める音がすると、さーっと台所に飛んできて、隙を見て生地をちぎって持っていった。焼いてもいない練り粉を食べるのが好きだったのだ。
 家の中でわいわいと賑やかに遊んでいた兄ちゃんとそのお友だち。その間をチョロチョロしながら、好きなことをしていた昇平。ピザを作っていたら、その頃のことが鮮やかに思い出されてきた。うん、大変ではあったけど、あれはあれで本当に楽しい時代だったな……。

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 「お母さん、具をやっていい?」
 と昇平に声をかけられて我に返った。エプロンをしめて私の目の前にいるのは、あの頃の兄ちゃんより背が高くなった昇平。
「ぼくの好きな材料だけのせて作るからね」
 と言いながら、次々と具をのせていく。昇平スペシャルピザは、ベーコン、玉ネギ、エビにチーズという組み合わせ。母は野菜ピザが食べたかったので、ベーコン、ナス、トマト、玉ネギにピーマンという組み合わせにした。250℃のオーブンで約15分間。もう何年もピザなんて作っていなかったのに、やってみると、ちゃんと手順やコツを覚えていた。我ながらびっくり。
 あつあつを切り分けて、誕生日なので特別にジュースなど出して、
「いただきまーす……うまいっ!」
 自分で作った自分好みのピザは、とりわけおいしかったらしい。ぱくぱくと一人で5切れも食べていた。

 いつの間にかピザも大好きになっていたんだねぇ。
 兄ちゃんたちがやっていたように、きみも一緒にピザ作りができるようになったんだねぇ。
 興奮するとテンションが上がって、ちょっと調子に乗りすぎてしまうけれど、それでも母のいうとおりにピザを作っていったきみ。ホントにホントに大人になったよねぇ。

 今日はきみの11歳の誕生日。生まれてから何日ぐらい一緒にいたんだろう、とふと考えて、1年を365日で単純計算したら……約4000日。まだそれしか一緒にいないんだ! とびっくりしてしまった。もっともっと長い時間、一緒にいたような気がしていたから。
 4000日の間に、きみはこんなに大きくなった。これから、もっともっと大きくなっていくだろう。頭も心も体も何もかも、きっともっと成長していくんだろう。
 ここまでのきみの成長を一緒に見てこられて幸せだったよ。大変なこともたくさんあったけど、楽しいことはそれ以上にたくさんあった11年間だった。そんなきみが、どんな大人になっていくのか、これからも母は見守っていきたいと思うよ。これから先、4000日が5000日になり、一万日になり……そうして、きみはどんな大人になっているんだろうね? きみらしい色の輝いている、そんな大人になってほしい、と母は思うよ。060826_1213

 ハッピーバースデー、昇平。11歳おめでとう。
 少しずつ少しずつ一人歩きを始めた、きみに乾杯。

[06/08/26(土) 14:02] 日常 発達障害

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