昇平てくてく日記2

小学校高学年編

効果が出てきた

 さて、協力学級(交流学級)での授業で、自分の好きでない内容になると、とたんにブツブツ言ったり騒いだり、先生に文句を言いに言ったりして、授業の妨げになっていた昇平。授業を受け持つ先生も、補助についている西尾先生も、それぞれ精一杯に工夫しながら、昇平の指導や対応に努力しているのに、昇平の態度は変わらない。周りの子どもたちも、5年生になって大人になってきて、そんな昇平を見る目が批判的になってきている。これはまずい、学校側の対応だけではもう限界だ、と感じて、急いで病院へ走り、主治医と相談したのが先週の金曜日のこと。
 主治医は、前回までの診察での昇平の様子と、私の話を総合して、「お薬をもう少し調整しましょう」という判断をくだした。夏休み前から処方が始まっていた、精神安定剤のセレネースが増量されたのだ。
 実際のセレネースの反応はというと、家庭の中ではそれなりの効果が出ていた。決して劇的に効いたりはしていないが、以前に比べて人の話がよく聞けるようになったり、出先の場で落ちついて過ごせるようになって、結果として場面の理解も以前よりは良くなってきていた。それは、私も旦那も感じていたことだったのだけれど、学校という、「常に自己コントロールを要求される場」に入ると、その程度の効果ではとても間に合わない、ということだったらしい。とりあえず、一週間分処方されて「これで様子を見ましょう」ということになった。

 まだ昼前だったので、さっそく学校へ新しい薬を届けに行った。セレネースは、リタリンと同様、朝食後と昼食後に服用するようになっている。ちょうど休み時間だったせいか、昇平たちもドウ子先生も教室にいなかったので、隣の教室の原先生に主治医の話を伝えた。
 そのとき、1,2校時目にあった5年生の水泳記録会の様子を聞かせてもらうことができた。なんと、昇平は、自分が記録を取ってもらうまでプールサイドに静かに座り続けて、少しも騒がなかったのだという。前の日に話して聞かせた「このまま協力学級で騒いでいると、5-2に勉強に行けなくなるよ」ということばが効いたらしい。「そうなっては大変だ!」と必死で自分を抑え続けたようで、記録会の後、自分の教室に戻ってきてからの第一声が「ぼく、騒がなかったよ」。記録会の間中、ずっと『文句は言わない』と心で言い続けていたような表情だったという。実際には、犬かきでだが、25メートルを今までの最高タイムで泳ぎ抜く、という「偉業」を成し遂げていたのだが、そのことには一言も触れなかったらしい。
 どうやら、昇平も自分でも「5−2では静かにしなくては」と思い始めたようだが、そのためには相当のエネルギーを使いそうだ、という気がした。協力学級に行くたびに、毎回、毎時間、こんなにがんばっているのでは、疲れ果ててしまうし、肝心の学習に回るエネルギーも足りなくなってきてしまう。やっぱり薬の補助を借りて進めていくほうが良さそうだな、と感じながら、原先生に新しい薬を預けて家に戻った。

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 それから4日が過ぎた。間に土日がはさまったので、学校へ行く日は2回あったが、迎えを頼む電話が来る度に、昇平が電話口で報告してくれる。
「おかあさん、ぼく、今日の水泳大会で全然騒がなかったよ!」(やっぱり25メートルを泳ぎ切ったことは言わなかった)
「お母さん、今日の5時間目の理科で、一言も文句いわなかったよ!」
 とても誇らしそうな声で伝えてくる。一生懸命がんばったよ、我慢することができたよ、という嬉しい気持ちが、電話を通じて伝わってくる。もちろん、私は電話口で力一杯誉めて、後で迎えに行ったときにも、面と向かってまた誉める。協力学級の岩幡先生やドウ子先生たちも、たくさん昇平を誉めてくれているらしい。
 実際には、ちょっとしたことから不安定になって大騒ぎしたり、それがなかなか収まらなかったり、ということが、ゆめがおかでは起こっているのだけれど、それにしても、以前よりは落ちつくのが早くなった、そんな自分を自分でコントロールできるようになってきた、とドウ子先生も見ている。家庭の中にいる私も、日中の昇平の行動が「静かになった」と感じている。ひっきりなしに体を動かしたり、落ちつきなく動き回る感じがぐっと減ったのだ。それだけに、気持ちも落ちついてきて、自分で自分の行動をモニターしたり、周りの様子や話に注意を向ける余裕が出てきたのかもしれない。
 もっとも、そのぶん疲れが出るのか、夕方薬が切れると急に落ちつきがなくなっておしゃべりになる、一種の「リバウンド」が起きているけれど、まあ、これはそうなるのも無理がないと思うので、あまり気にしていない。『お疲れさん、一日よくがんばったね』と思いながら眺めている。

 薬の助けを借りながら、自分をコントロールする努力を始めた昇平。ありがたいことに、その成果が目に見える形で出てきて、それをたくさん誉められることで、本人にもフィードバックされている。
 次に病院へ行くのは木曜日。この分だと、主治医に嬉しい報告ができるかもしれないな、と考えている。
 ……まだまだ安心してしまうには早いけれど。(苦笑)

[06/09/05(火) 04:24] 学校 日常 療育・知識 発達障害

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