連携して解決を目ざす・3
さて、病院で臨床心理士のW先生からいただいたアドバイスを、翌日の連絡帳に書いて持たせ、昇平が帰宅するのを待ちかねて連絡袋をチェックしたら……あれ、これはなに?
袋の中に色画用紙で作った小さなカードのような物が入っていた。大きさは、縦8センチ×横10センチというところだろうか。かわいい怪獣が赤い火を吹いていて、「怒りのバロメーター」と書かれている。あはっ、ドウ子先生、さっそく「感情の温度計」を作ってくださったんだ。「怒りのバロメーター」だなんて、いいネーミングだなぁ!
と思って眺めるうちに、下に取ってのような物がついているのに気がついた。矢印で横に動かすように指示してある。え? 試しに取っ手を動かしてみたら――わぁ、怪獣の赤い炎の大きさが変わった!?
なんと、ドウ子先生が作ってくれた「怒りのバロメーター」は、怒りの度数に合わせて赤い炎の大きさが変えられる、可変式のものだったのだ!
写真を載せてみるけれど、取っ手を動かして炎が変わっているのがおわかりいただけるだろうか?
実際には水色の画用紙を2枚貼り合わせ、下の方の画用紙に赤い色紙を貼り、上の画用紙に三角形の窓を開けて、窓の左側に怪獣のシールが貼ってある。二枚の画用紙の間に、取っ手つきの水色の小さな画用紙が挟み込んであって、それを左右に動かすことで、下の赤い色紙を出したり隠したりして、炎の大きさが変えるようになっているのだ……という説明で、分かってもらえるかな? スライドするために、貼り合わせた2枚の画用紙は、下の方が半分くらい開けてある。
赤い炎の窓の上には、パーセンテージの数字と、その時の怒りの状態を表すことばが書かれている。
「おこってないよ。0ゼロ」
「ちょっと いらいら(20%)」
「かなり おこってます(50%)」
「ゆるせないくらい おこっています(100%)」
すごい! これはすごすぎる! さすがはドウ子先生!!
こんな楽しいアイテムだもの、それが「怒り」を表現するためのものだとしても、昇平は絶対に大喜びしたはず。と考えながら連絡帳を開いてみたら、こんな事が書かれていた。
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10月13日(金) 記録者:ドウ子
(カウンセリングの結果を)教えていただき、ありがとうございました。今後の対応に生かしたいと思います。
昇平くんに「バロメーターって知ってる?」と聞くと、「知ってるよ」と言うので、早速、「怒りのバロメーター」を作ってみました。怪獣がおもしろかったらしく、「ぼくもこういうの作りたい!!」と、別の意味で興味を示していました……。
実際に使ってみると、下の取っ手を動かすときに中の画用紙がひっかかることがあるので、「すべりが悪いよ、イライラする」と、さっそく怒りの炎を20%にされてしまいました。持たせますので、週末に家で使う機会があれば使ってみてください。学校や家庭で使えるようなら、動きの部分も改良したいと思います。でも、おうちでは怒るような場面もないでしょうね。
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読んで、その場面が目に浮かぶようで、思わず笑ってしまった。昇平の話によると、炎を大きくしたり、小さくしたり、ほんのちょっとだけ炎を出して「鼻血だよ」などとふざけたり、ずいぶん楽しんでいたらしい。それを見たL子さんが、「私もこういうのが欲しいなぁ」と言ったというし、一種のおもちゃ扱いになっていたようだけれど、これはこれで大成功だと思った。
実際には怒りにも段階があること、その段階に合わせて適切な表現のことばがあること、を本人に理解させるためのものが「怒りのバロメーター」(感情の温度計)なわけだから、昇平の関心をがっちりつかみ、その内容をしっかり理解させたこの教材は、まず、その目的をはたしたことになる。
さて、週末、家庭の中で「怒りのバロメーター」を活用する場面は発生したか?
以下は次回に続く……。
[06/10/20(金) 10:20] 学校 日常 療育・知識 発達障害