昇平てくてく日記2

小学校高学年編

連携して解決を目ざす・6

 連絡帳に書いた内容から。

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10月18日(水)   記録者:母

 今日、お迎えの電話をかけてきた昇平が、少し興奮気味の声でこんなことを言いました。
「あのね! ぼくね今ね、電話をかけようとして何度もカードを入れたのに、“プーップーッ”って言ってなかなか出ないから、すごいイライラしちゃったの! 受話器をガチャン! て何度もやっちゃったんだ!」
 どうやら、カードのいれ加減か、数字ボタンの押し具合のせいで、なかなか電話が通じなかったようです。
 迎えの場所に行くと、一緒に帰ってきたMくんたちが、
「昇平くんはボタンを『0,9』まで押しただけで、何度もガチャンと電話を切っていたんですよ」
 と教えてくれました。
「なかなか通じなくて、昇平くんは焦っちゃったんだね。ありがとう」
と教えてくれたことに感謝しました。

 電話がうまくかけられなくて、電話機に八つ当たりしていたのはなんですが、自分のその時の気持ちを「イライラしちゃった」とことばで正確に言い表せていたことに驚きました。電話機に向かって「殺す!」「ぶっ壊す!」とは言ってしまっていたようですが、電話が通じた後は、母にパニックや怒りをぶつけたりすることもなく、状況と自分の感情をきちんと表現することができていたわけですから。
 実際、それだけのことを私に伝えると、
「でも大丈夫、ちゃんと電話がかけられたよ」
 と言って、満足したように電話が切れました。
 “怒りのバロメーター”などで自分の感情をモニターするようになった成果が現れ始めたのでは、と感じました。

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10月19日(木)   記録者:ドウ子

 「カードが入りにくい」などの予想できないアクシデントがあるのが日常生活の常なので、「社会で生活する」ということは、そういう時にどう対処(解決)できるか、という力が必要とされるのでしょうね。
 そういう意味では、怒った理由を伝えられたこと、それを見ていてくれた友だちがいること(そういう関係を築けていること)、そして、怒っても電話をかけるのをやめず、自分の目的を貫けたこと、すうぐに気持ちを切り替えられたこと、などなど、日ごろ苦手と思われることが少しずつできるようになっているんだなぁ、と思いました。
 そして、その場に大人がいなかった、ということも、自分で何とかしなければならず良かったのだと思います。近くに教師がいたら、「通じないよ!」と怒って、すぐにはかけられなかったかもしれません。

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 ドウ子先生の連絡帳を読んで、なるほどなぁ、と思った。
 おそらくMくんたちは、昇平が公衆電話をかけようとして、何度も途中で切ってしまったので、びっくりしながら見ていたのだろうと思う。でも、通じた電話口で、私相手に「何が起きたか、自分がどう思ったか」を語ったものだから、Mくんたちも、そうだったのか、と思い、それで迎えの場にいた私に何が起きていたかを教えてくれたのだろう。昇平が、自分の気持ち、状況をしっかりことばで語ったことが、友だちの理解につながったのだと思う。
 しかも、母である私に思いを語って、すっきりした昇平は、その後は機嫌を直してMくんたちと一緒に下校することができた。(実際、迎えの場に到着した頃には普通の顔をしていた。)
 自分の気持ちを自分で把握し、それをことばにしていく、ということは、考えていた以上に大事なことなのかもしれない、と私は思い始めていた。
 以下は次回に続く……。

[06/10/24(火) 10:25] 学校 日常 療育・知識 発達障害

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