昇平てくてく日記2

小学校高学年編

もうひとりの5年2組のクラスメートとして

 さて、福島県内では今日が公立小中学校の卒業式。明日から子どもたちは春休みです。
 我が家でも昇平が一日家にいるようになります。きっとまた、てくてく日記の更新率が上がることでしょう。昇平が目の前にいないと、どうしてもネタが見つからないんですよねぇ。

 さて、今日の日記は、昨日昇平を迎えに行った時の話。

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 終了式で子どもたちは割と下校が早かったけれど、昇平は他の5年生と一緒に、明日の卒業式の準備作業をしてきて、帰りが遅かった。聞いたら、6年生の教室を掃除するのを手伝ったらしい。会場を飾り付ける子にテープを渡した、とも言っていた。
 昇平は情緒障害児学級にいる。5年2組は協力学級。いわゆる交流級だ。教科によって、母学級で勉強したり、5−2に行って授業を受けたりしている。他には5年生全体での活動にもまざっている。今回のような卒業式の準備も、学年の全体活動なので、昇平も一緒に参加した、というわけ。

 「半分自力下校」シリーズの時に書いたように、昇平は協力学級のお友だちと、途中の待ち合わせ場所まで歩いて帰ってくる。下校の際には保健室の前の公衆電話から、母の携帯に電話をかけてくる。
 卒業式の準備が終わって、帰りの会も終わり、昇平が電話をかけてきた。
「お母さん、ぼくこれから帰るからね。迎えに来てちょうだい。あと、それからね――!」
 昇平は、何か特別な連絡があるときには、決まって迎えコールのついでに話す。忘れないうちに母に伝えておこうとするのだろう。なにしろ忘れっぽいADHDっ子なので、これはとても正しい判断だろう。
「明日は卒業式だからね、持っていくものは手提げと――ええと――白靴下と――あと筆記用具」
 相変わらず、昇平の話し方はたどたどしくなるけれど、それでもちゃんと大事なことを伝えられた。
 すると、電話の後ろから遠い声が聞こえてきた。
「白いの! 白いの!」
 一緒に帰ってくるMくんの声らしい。昇平が気がついて言いたした。
「あとね、白い靴下」
 Mくん、昇平が最初に白靴下と言っていたのを聞き逃して(昇平の発音はやや不明瞭なので、聞き取りにくいことがある)、心配して、「白い靴下だよ」とわきで言ってくれていたらしい。
 なんだか電話の向こうの光景が目に浮かぶようで、思わずにっこりしてしまった。

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 待ち合わせ場所で待っていたら、向こうから昇平とMくんがやってきた。
 二人でしきりに何か話していて、とても楽しそうに笑い合っている。おやぁ、と思いながら、眺めていた。
 二人がしゃべりながら歩く姿は、とても自然体。なにか冗談を言い合っているようで、笑い合っている。昇平が別れて車に向かってくるとき、私はいつもMくんに「お世話さまねー」と声をかけるのだけれど、いつもは私に向かって一礼するMくんが、この日は昇平に向かって笑顔で「じゃあ、またね、昇平くんー!」と声をかけていった。
 うーん、そうかぁー、と思わずうなずいてしまった。
 半分自力下校を計画したとき、昇平のバディ役に選ばれたMくん。真面目でとても優しい子で、昇平をしっかり待ち合わせ場所まで送り届けなくちゃ、と責任を感じるあまり、プレッシャーに家で泣き出してしまった、なんてこともあったのだけれど。その様子を見て、あわてて、Mくんばかりに負担がかからない方法を、先生たちと一緒に考えたりしたのだけれど。
 今ではこんなに自然に、一緒に帰れるようになったんだね。
 この日は一緒じゃなかったけれど、他にももう一人、よく昇平と一緒に帰ってくれる子がいる。
 彼は先日昇平が不安定になって5−2で「ぼくには友だちがいない!」と言っていたときに、「ぼくが友達になってあげるよ」と慰めてくれた。彼と昇平も、よく自然な感じで話しながら帰ってくる。
 これが一年という年月の積み重ねなんだなぁ、とつくづく思った。
 最初からスムーズには行かないかもしれない。でも、小さな経験の積み重ね、一緒に過ごす時間の積み上げが、少しずつ少しずつ、昇平という「ちょっと変わった子」の理解につながっていく。いつの間にか、昇平はもう一人の5年2組のクラスメートになっていく。……そういうことなんだな、と思った。

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 正午を過ぎた。
 卒業式はもう終わったはずだけれど、昇平からはまだお迎えの連絡がない。きっと、卒業式の後片付けもしているのだろう。6年生が卒業していって、いよいよ彼らが小学校の最上級生なのだから。
 昇平も6年生になる。まわりの6年生ほど、頼もしくもないし、できることも限られているけれど、でも、昇平は昇平なりに、6年生らしい1年間を過ごすんじゃないかと考えている。友達に支えられながら、先生方に見守られながら。
 きっと、来年度はいっそう大きく成長する年になるね。

 少しずつ親の手から離れていく君。
 頼りない、おぼつかない足取りで、それでも自分で歩き出そうとする。
 だったら、親の役目は、がんばる君を見守って応援する役。
 がんばり抜いて疲れて帰ってきたときに、「お疲れさま」と言ってあげる役。

 来年度も、みんなと一緒に良い年にしていこうね、昇平――!

[07/03/23(金) 24:15] 学校 発達障害

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