昇平てくてく日記3

中学校編

三者面談

 昨日は三者面談がありました。内容は、これから学校で頑張って欲しいことと、進路についてです。
 学校生活の様子については、普段から連絡帳を通じて密にやりとりしているので、改めて話し合うことはありませんでしたが、最近表情が明るくなってきたことや、自分でパニックや怒りをコントロールしようとがんばり始めていることは、直接長谷田先生が誉めてくださいました。
 続いて、先生のほうから、昇平にこれから頑張ってもらいたいことについて話がありました。

1.切り替えをもっとスムーズにしてほしい。
2.我慢をもっと覚えてほしい。

 切り替えがうまくいかなくて休み時間のパソコンがやめられず、次の授業に遅れることがある――など、実際に困っていることが起きているわけですから、もっともです。
 ただ、それについて「昇平くんにはできるよね。決して難しいことではないものね」と長谷田先生がおっしゃるのを聞いたときには、思わず苦笑してしまいました。う〜ん……それはこの子たちには「とても難しいことの一つ」なんですけどね。

 何かに熱中すると他が見えなくなるのはADHDの特徴です。そして、広汎性発達障害は自閉スペクトラムだから「考えや行動を切り替えることが苦手」というのが特徴です。基本仕様が「切り替えが苦手」にできているわけだから、それを改めるのは決して楽なことではないのです。はっきり言って、決心一つや心がけ一つでなんとかなるようなものではありません。
 「おうちではどうですか?」と聞かれて、「やっぱり切り替えはとても苦手みたいです」と答えたら、それでいいことにしちゃいけませんよ、と言いたげな無言のメッセージが伝わってきました。うぅむ……諦めているわけじゃありませんよ。ただ、とてもとても困難だということを認識していて、改善にとても時間と努力が必要だとわかっているだけのことです。
 我慢をすることだって、ADHDのある子には非常に高い課題です。それがクリアできれば、障害そのものをクリアしたと言ってもいいくらいのことでしょう。

 もちろん、先生は「それを目標にして、頑張って少しでも改善していこうね」と昇平に言ってくださっているわけで、昇平にそれがすぐできるとは思っていないのですが、もうちょっと、本人が達成感を感じられる、低めの目標を設定してもらえると、ありがたいな、と思いました。最終目標はそのまま掲げておいてもらってかまわないから、その手前に、「そのためにまず、ここまで頑張ってみようね」「このことならできそうだから、まずこれをクリアしてみようね」と。
 そうでないと、いつまでたっても最終目標にたどり着けないことに本人が失望して、頑張ることをやめてしまうでしょうから。


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 その後、話題は進路についての内容に移りました。
 昇平は中学2年生。そろそろこの上の進路について考える時期に来ています。

 先日の高校説明会で、昇平は同じ市内の二つの高校の話を聞いて、そのうちの一つを受験したい、と言いだしていました。ただ、そこは県立の普通科。学力的なことは置いておいても、本人がそこでまともに学校生活を過ごせるとは思えない学校でした。自分に合った学校に行きたいと言っていたのに、何故急に? 自転車で通える範囲にある、近い学校だから? でも、もっと近い高校も別にあるのに。
 この機会に昇平にそれを聞いてみたら、最初言い渋っていたのですが、やがて教えてくれました。「もうひとつの学校には、ぼくが苦手な子が行くからなんだ」
 ああ――なるほど。そっちの学校に入ってしまったら、苦手な子とまた一緒になって、トラブルになるかもしれないから、そっちは嫌だ、と考えたのですね。

 長谷田先生が高校便覧を開きながら、また別の高校を勧めてくださいました。そこは単位・通信制の高校で、だいぶ前から、我が家でも、そこが良さそうだと考えていた学校です。ただ、本人が別の高校を受けたい、と言いだしていたこともあって、私たちのほうからはまだ本人に話してはいませんでした。
 全然違う学校を勧められたので、昇平は「えー」という反応でしたが、私が「苦手な子と一緒になりたくないなら、その学校以外のどこの学校でもいいはずだよ。この学校に行ったって、その子はいないわけだよ」と言うと、「あっ、そうか」。……こういう当然すぎるようなところに気がつかずにいるのが、この子たちです。(苦笑)

 そこへ長谷田先生から説明がありました。この高校は普通の高校とは違っていて、自分の勉強したい科目を自分のやりたいように組むことができますよ。中学校のように毎日朝から夕方までびっちり勉強することもないし、自分の調子に合わせて遅く行ったりすることもできます。自分のペースで勉強できる学校なんですよ――。
 その話を聞いたとたん、昇平の目の色が変わりました。がばと立ち上がり「その学校がいい! そういう学校を望んでいたんです! お願いです、どうかその学校にいかせてください!」 多少芝居がかってはいましたが、机に手をついて先生に頭を下げました。

 そう、昇平は以前から言っていたのです。高校は自分がちゃんとやっていける学校がいい。ちゃんと通えて、勉強がわかる、そういう学校に行きたい、と。
 一日6校時までびっちり授業が組まれる普通高校は、昇平には非常に大変です。高校になれば、支援員もまったくつかなくなるので、自分が何をどうすればいいのか、そのことさえわからなくなって、昇平は高校の中で「遭難」しかねません。
 でも、人より少し余計に休みを取れれば。人より長い時間がかかってもいいから、自分に無理のないペースで勉強していくことができれば。そうすれば、昇平だってちゃんと高校に通って学べるのです。

 本人、家族、担任――三者の希望と見解が一致して、昇平の第一志望校は早々に決まりました。福島駅のすぐ近くにある、単位・通信制の高校です。それも平日の日中に通うコースで、その気になれば毎日だって登校することができます。
 3年間で卒業する必要はありません。いえ……むしろ、卒業まで4〜5年かかったほうがありがたいと考えています。ゆっくりと大人になっていく昇平です。高校に通い続ける間に、その分だけ中身も成長していくことでしょう。

 受験に学科試験はありませんが、面接と作文があります。これから受験の時期まで、そちらのほうも一生懸命やっていこうね、と長谷田先生から言われました。
「昇平くんは目上の人に対する正しい話し方を身につけていかなくちゃね」
 すると、昇平が言いました。
「それはつまり、礼儀作法を覚えろってことか」
「そうそう。それが社会に出てからは一番大事になるんだよ。はっきり言って、勉強ができることなんかより大切になるんだよ」
 ここぞとばかりに、長谷田先生と私で話をして、「礼儀正しくふるまうことを頑張る」という目標を納得してもらえました。昇平が、今一番覚えていかなくてはならないことです。
 とたんに、昇平は長谷田先生に対して、とても丁寧に、敬語まで使って話し出しました……現金なヤツ。(笑) でも、具体的な目標が決まったので、きっとこれからは礼儀も頑張ることでしょう。


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 三者面談が終わって車に乗り込みながら、昇平が志望校への通い方を聞いてきました。
 お兄ちゃんがやったように駅まで自転車で行って、自分で電車にのって通うんだよ、と話して聞かせながら、一番心配なことを言いました。
「電車には騒がしい人も一緒に乗ることがあるよ。泣いている赤ちゃんが乗ることもあるかしれないよ。そういう時に『我慢』ができなかったら、昇平くんは高校に通えなくなる。だから、最初に長谷田先生がおっしゃったように、我慢することを覚えなくちゃいけないんだよ。切り替えをスムーズにするのも大事だよ。切り替えられなくて遅くなったら、電車に乗れなくなったりするんだからね」
「わかった」
 すべてが高校という進路に結びつける形で収まって、昇平は晴れ晴れとした顔をしていました。希望に充ちた、良い顔です。自分の学校での様子を叱られるのではないか、と牙をむいていた去年の三者面談とは、雲泥の差でした。

 いろいろなことはあるけれど、本人も家族も学校も、それを乗り越えて高みを目ざします。
 諦めない心は、きっと何かを生んでくれるだろう――と、最近そんなことをよく考えます。

[09/11/26(木) 10:22] 学校

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