ADHDの子どもへの対処法を考える
 〜ペアレント・トレーニング4回目より〜

子どもの協力を得るにはどうしたらよいか
〜上手な指示と制限(罰)の与え方〜


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しばらく更新をお休みしておりました。
その間に、とーます!のペアレント・トレーニングも回を重ねていて、今ではもう4巡目が終わりに近づいています。繰り返しPTを受けている会員からは、家庭で実践を続けるうちに子どもとの関係がうまく行くようになってきた、という嬉しい報告を聞くようになりました。我が家でも、もちろん効果が出ています。こうなると、PTを実践するのも楽しくなるんですよね。

さて、今回はいよいよ、親が一番知りたい指示と制限(罰)の出し方の話。
ADHDを持つ子どもたちは、自分の行動のコントロールがなかなかできませんから、どうしたって親が指示を出すことが多くなります。しかも、なかなか指示に従ってくれません。指示の出し方にもテクニックが必要です。
それでも子どもがどうしても指示に従ってくれないときには、制限を与えなくてはなりません。制限というのは、いわゆる罰のことです。
子どもの協力を得られやすい上手な指示の出し方、適切な制限の与え方とはどんなものか。じっくりご覧下さいね。


指示を出してから制限を与えるまでの流れ

1.

指示を出すときはCCQで。

 lose ・・・近くに寄って
 alm  ・・・穏やかな声で
 uiet ・・・静かに(簡潔に)言う

2.

指示に従わなかったときには、次のことをする。

・無視とほめる →「無視:ほめるために待つ」参照
・予告
・選択
・〜したら〜しても良い(取り引き)
・ブロークンレコード

以上の方法で効果がないときには、
・制限(罰)を予告する
 *自分の行為の結果としての罰であること

3.

制限(罰)を与えたら、徹底してやり通す

4.

子が良い行動を始めたらほめる(認める)
 *怒って罰を与えているわけではない。



1.指示
 近くによって、穏やかな声で、静かに(簡潔に)言うのが、指示を出すときの基本です。これをCCQと言います。(Close、Calm、Quiet)
 怒ったような声で「○○しなさい!!」と指示を出すと、『お母さん(お父さん)は怒っているぞ』ということにばかり頭が行ってしまって、肝心の指示がよく聞き取れなくなる可能性があります。
 指示は、聞き取りやすいように、近くから、余計な感情を込めず、短く分かりやすく言います。
 年齢の小さい子ほど、近くから声をかけたほうが効果的です。

2.指示を聞かなかった場合(制限の前にすること)

無視&ほめる

「無視」とは「取り合わない」ということ。
その子が、その行動を悪いことと知りつつやっていたら、無視して放っておきます。
相手にされないと、子はだんだんつまらなくなって、その行動をやめるようになります。
子が別の良い行動を始めたところで、すかさずほめ、良い行動を増やしていきます。
言葉でほめなくても、返事をする、顔を見てやる、などの承認サインを送ればOKです。
「無視:ほめるために待つ」参照

具体例・1

「昇平くん、夕御飯だからおもちゃをお片づけしてね」

「や〜だも〜ん。お母さんのば〜か。やっつけてやる!」

(無視して取り合わない)

「ばかー! このやろうー! 嫌だって言ってるだろー! なんか言えよー、くそばばー!!」

(さらに無視。視線も合わせない)

「・・・お母さん、何か言ってください」

「夕御飯だから、おもちゃをお片づけしようね」

「わかった」(しぶしぶおもちゃを片づける)

「さあ、ご飯にしようね」



予告

あと○分後に(△△をし終わったら)指示に従うように、と予告します。
予告は子が行動に移りやすくするために出すものです。行動しにくくなるような予告の出し方はNG。
子の状態をよく見て、タイミングを見計らってください。

具体例・2

良い例

「宿題する時間だから、もうテレビを止めようね」

「やだー」

「それじゃ、今見ているその番組が終わったら、テレビを止めようね」

「いいよ」

「(番組が終わったところを見計らって)さあ、テレビを止めて宿題しようね」

「うん」(テレビを消す)

NGの例
「宿題する時間だから、もうテレビを止めようね」
「やだー」
「それじゃ、あと5分だけ見たら、止めようね」
「(うるさそうに)んー」
「(5分後)さあ、テレビを止めて宿題しようね」
「やだー!! 今、一番いいとこなのに。お母さんのバカ!!」



選択

「AとB、どっちがいい?」と聞いて、子ども自身に行動を選択させます。
どちらを選んでも、結局やるべきことはやらなくてはならない選択内容にするのがポイント。
不思議と、親に言われるとやりたくないことでも、自分で選んだことだとすんなりできたりするのです。

具体例・3

良い例

「(食事中に)ニンジン入ってるー! ニンジン、キライだー!」

「こっちに昇平くんの大好きなお肉があるよ。お肉でニンジンを巻いて食べようか? それとも、ニンジンだけで食べちゃってから、後でお肉を食べるほうがいい?」

「・・・お肉で巻いて食べる」

「わかった。じゃ、お肉でニンジン巻いて上げようね。はい、あーん。」

「あーん」

NGの例

「ニンジン入ってるー! ニンジン、キライだー!」

「こっちに昇平くんの大好きなお肉があるよ。先にニンジンを食べてからお肉を食べるのがいい? お肉を食べてからニンジン食べるのがいい?」

「先にお肉を食べる!」

「(子が肉を食べ終わったのを見て)それじゃ、ニンジンを食べようか」

「ニンジンいやー! 食べられないー!!」



〜したら〜してもよい(取り引き)

その指示に従うと貰えるものや、しても良いことを提示して、子と取り引きします。
「子と取り引き」などと言うと、なにか卑怯な手段のように感じるかもしれないけれど、実際には、親子間でごく普通に行われている対応ですよね。

具体例・4

「お部屋を片づけてちょうだい」

「え〜、やだ〜。できない〜」

「お部屋がきれいになったら、おやつにケーキを出してあげるよ」

「お片づけするー!!」



ブロークン・レコード

ブロークン・レコードとは「壊れたレコード」という意味。
今では珍しくなってしまったレコードですが、表面に傷が付くと、同じ部分だけを何度も何度も繰り返し演奏するようになります。
あれと同じように、子になんと言われても、同じ指示を淡々と繰り返して言い続けます。
最後には、子のほうが馬鹿馬鹿しくなって、折れてきます。

ただし、親のブロークン・レコードに子どももブロークン・レコードで対抗するようになったら、この方法はあきらめます。

具体例・5

成功例

「お風呂に入ろうね」

「やだー。入らないー」

「お風呂に入ろうね」

「イヤだっていってるだろうー!」

「お風呂に入ろうね」

「お風呂キライだったら! イヤだって言ってるのが聞こえないのかよ」

「お風呂に入ろうね」

「わかった、入るよ。全く、おんなじことしか言わないんだからー・・・(ブツブツ)」

ブロークン・レコード VS ブロークン・レコード

「お風呂に入ろうね」

「お風呂に入りませんー」

「お風呂に入ろうね」

「お風呂に入りませんー」

「お風呂に入ろうね」

「お風呂に入りませんー」・・・(エンドレス)



3.制限(罰)の与え方
上に書いたような手段では指示に従ってもらえないときに使います。
制限(罰)を与える際には、できるだけその行為と関係のある内容にして、行動の責任を子ども自身にとらせるようにします。
また、制限(罰)の内容は必ず子に予告しておきます。
子をぎゃふんと言わせるために与えるものではないので、子が自分の行動を改めたら、すぐにそれをほめ(承認し)ます。

具体例・6

成功例

「昇平くん、もうお布団に入りなさい」

(遊んでいて、全然布団に入ろうとしない)

「お布団に入らないなら、寝る前のお話は無しだよ」

「お話して!(と布団に飛び込む)」

「はい、じゃお話しようね。むかしむかし、あるところに・・・」

NG例・1(罰を予告していない)

「もうお布団に入りなさい」

(遊んでいて、全然布団に入ろうとしない)

「はい、今夜のお話は無し!」

「えーっ、いやだーーーっ!!!(大泣き)」

NG例・2(罰に関連性がない)

「もうお布団に入りなさい」

(遊んでいて、全然布団に入ろうとしない)

「お布団に入らないなら、約束していた明日のハンバーグは取りやめよ」

「えー、そんなの関係ないよー! ひどいー!」

NG例・3(本人が行動を改めているのに認めない)

「昇平くん、もうお布団に入りなさい」

(遊んでいて、全然布団に入ろうとしない)

「お布団に入らないなら、寝る前のお話は無しだよ!」

「お話して!(と布団に飛び込む)」

「いいえ、言われたときにすぐに布団に入らなかったから、今夜のお話は無しです!」

「えー、そんな〜! ぼく、ちゃんと布団に入ったのに〜!(泣く)」



【大事なこと】 制限(罰)を与えたら、徹底してやりとおします!

そうしなければ、子は「罰を言いわたされたって、それをやる必要はないんだ」と思うようになり、親の言うことを聞かなくなります。
ということは、つまり、親が徹底してやり通せないような罰は与えないほうがよい、ということ。
重すぎる罰はやり通すのが難しいので、軽めの罰のほうが無難です。

具体例・7

罰が重すぎる例

その1

「もうゲームをやめなさい! やめなかったら、ゲーム機を捨ててしまうわよ!!」

  本当にゲーム機を捨てられますか? 高いお金を払って買ったのに。
 「明日一日ゲームはなしよ」と言うくらいが適当かも。


その2

「言うこと聞かないなら、休みにディズニーランドに行くのは取りやめにします!」

  家族全員で楽しみにしている旅行を取りやめられますか? 他の家族からも恨まれる可能性大。

その3

「今ご飯を食べないなら、一生ご飯を食べさせませんよ!!」

  一生食事を与えないなんてこと、できませんよね。虐待です。

その4

「(門限に遅れて帰ってきた子に)これから1カ月間外出禁止だぞ!」

 1カ月もの長い間、子を外出できないようになんて、できますか?
 特に、思春期を迎えた大きな子の場合、やり通すのは難しいでしょうね・・・。


その5

「これからずっとお小遣いは無しよ!」

 子は「どうせ小遣いはもらえないんだから」と考えて、また同じことを繰り返します。
 これは、やり通せないと言うより、罰が重すぎて効果がない例。
 一般的に「来月の小遣いを○○円減らします」と言うほうが、効きめがあります。





【最後に】 制限はターゲット行動を決めて行います

とにかく言うことを聞かない子どもたちだから、あれもこれも制限の対象にしたくなるけれど・・・ちょっと待って下さいね!
親も子も、そんなに何でもかんでも守ることはできないし、がんばることもできません。

まず考えてみて下さい。 これ以前に学んだ 無視とほめる・予告・選択・〜したら〜しても良い(取り引き)・ブロークンレコード・・・この中で、使えそうなテクニックはありませんか? この章には載せていませんが、ポイントシステムなどが有効なこともあります。

それでもどうしても指示に従ってもらえそうにないとき、初めて制限を考えます。
まずはひとつか、ふたつだけ。「これは改めさせたい」というターゲット行動を決めて、それだけを重点的に制限の対象にします。
そのときには、50%くらい守れるようになっていること(つまり、ちょっとがんばればできるようになること)を選ぶのがポイント。
改めさせるのがとても難しいことをターゲット行動にすると、全然うまく行かないので、親子共々、落ち込む結果になってしまいます。
あらかじめ制限の内容を考えておくのも、成功のポイントです。

まずは、小さくても確実な成功の一歩から。
あせらず、無理せず、やってみましょうね。


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このレポートは、福島ADHDの会『とーます!』(現 発達障害支援の会『福島とーます!』)で行われたペアレント・トレーニング学習会の内容を、朝倉が個人的にまとめたものです。
レポート内に取り上げてある具体例は(成功例もNG例も)ほとんどが我が家の実例そのままですが、一部に、学習会で取り上げられた他の会員さんの事例や、インストラクターの中田先生が上げられた事例も含められています。
このレポートに関する質問等は、メールにてお受けいたします。

(2002年12月16日 作成)
(2002年12月17日 追加)  

朝倉玲  
ley@nifty.com  


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