さて、これでペアレント・トレーニングに関する説明は、一応完成です。
このポイントシステムには、目標行動を時間に沿って並べたBBC(Better Behevior Chart:「よりよい行動のためのチャート」)というものもあります。
朝の忙しい時間帯などにスムーズに行動ができるように、目標時刻も書き込んだポイントシステムです。
これに関しては、詳しくは「ADHDのペアレントトレーニング 〜むずかしい子にやさしい子育て〜」(シンシア・ウィッタム著/明石書店)をご覧いただきたいと思います。
この本は私が受講したペアレント・トレーニングの基礎テキストです。事例や具体的な方法などについてもたくさん紹介されていますので、併せてお読みいただければと思います。
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我が家ではペアレント・トレーニングを通じて、子どもたちがとても良く変わってきました。
ADHDのある次男だけでなく、普通の子どもである長男にもこのペアレント・トレーニングは有効だったのです。
ペアレント・トレーニングは親のための訓練ではありますが、同時に子どもを支援し、育てるための手段だったと思っています。その子の良いところ、がんばっているところを見逃さずに誉めることは、親子の信頼関係を深めるだけでなく、その子自身の自分を信じる心も育ててくれたのです。
ADHDを持つ子に兄弟姉妹がいる場合は、ぜひ、その子たちにもペアレント・トレーニングで学んだことを実践してもらいたいな、と思います。彼らもまた、親の注目を求めている子どもたちなのですから。
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ただし、ひとつだけ、ペアレント・トレーニングを実施する際に気をつけなくてはならないことがあります。
このペアレント・トレーニングはADHDのあるお子さんのためのプログラムなのですが、お子さんが広汎性発達障害(PDD)、高機能自閉症、アスペルガー、または自閉傾向もある、というような診断を受けていたり、一度覚え込んでしまったことを後からなかなか修正できないタイプであるような場合です。
ペアレント・トレーニングは子どもに世間一般から見て「良い」行動を身につけさせるためのテクニックですが、自閉的な特徴のあるお子さんの場合、それが本人にとっては「必ずしも良くない」可能性があるからです。
ごく単純な例をひとつあげます。
これは自閉のあるお子さんに限りませんが、皮膚感覚が敏感で、セーターがちくちく感じられて着られないお子さんがいたとします。
そのお子さんが「セーターは着たくない! 大嫌い!」と言っているのを、ペアレント・トレーニングの方法で着るように促し、誉めまくり、ポイントシステムなどで、セーターを着ることを習慣づけたとします。
でも、当人はセーターが着られるようになったことで、幸せになれたでしょうか?
寒さはしのげるようになったかもしれません。おしゃれの幅も広がったかもしれない。
でも、セーターのちくちく感を我慢するために全神経を張りつめるようになって、セーターを着ただけでひどく疲れてしまうかもしれません。学校の授業にも身が入らなくなるかもしれません。果ては、「お母さんはこんな自分の気持ちを全然分かってない。お母さんは自分の味方じゃないんだ」と思われてしまったり、「こんなふうに自分の不快なことに我慢をすることこそ、何より大切な美徳なんだ」と思いこんでしまって、どんな場面でも不快な感覚を「いやだ」と言えなくなる可能性さえあります。
親は決してそんなことを望んではいないのですが、子ども自身にとって「良いことかどうか」「有益かどうか」を最初に考えることを忘れると、とんでもない落とし穴に足を取られる結果になりかねません。
ですから、ペアレント・トレーニングを実施するに当たっては、まず「誉める」ことから徹底して行ってほしいと思います。
その子がすでにできている行動の中の、良い行動を見つけて、それを誉めて伸ばす。
それが充分にできるようになったところで、その子に身につけてほしい行動を、慎重に吟味しながら増やしていってほしいと思います。
また、ペアレント・トレーニングを実施してみても問題行動が減らない、あるいは逆に悪化していくように見える場合には、すぐにトレーニングを中止して、専門家に相談するのも大切なことだと思います。
親と子が、そろって気持ちよく生活ができるようになるために、ペアレント・トレーニングが活用されることを、心から願っています。
(了)
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