昇平てくてく日記2

小学校高学年編

「お母さん、大変だ!」

 今朝のこと。
 昇平を学校の昇降口前に降ろして家に戻っている途中、いきなり携帯電話が鳴った。走行中だったので、邪魔にならない路肩に寄せていたら、その間に電話は切れてしまった。着信履歴を見ると「公衆電話」――昇平だ。
 どうしたんだろう? なにか忘れ物があったのかな。トラブルでもあったのかな。私が出るまで鳴らし続けてくれればいいのに……。あれこれ思いめぐらしているところに、また電話が鳴った。
「はい、もしもし――」
 と出るやいなや、昇平の声が飛び出してきた。
「お母さん、大変だ! 今日、お弁当!!」
 えっ!?

 よくよく月間予定表を頭の中で思いだしてみる……。あー、そういえば、8日はお弁当と書いてあったようなぁ……。月曜日は中学校の学校公開、昨日の火曜日は小学校のフリー参観、今日は今日で、なんとしても今日中に片付けなくちゃならない用事があったし……で、お弁当だなんて、すっかり忘れていた。
「お母さん、どうしよう!?」
 と昇平が電話の向こうで言っていた。あせった声ではあるけれど、パニックは起こしていない。
「大丈夫、これから届けてあげるからね。おにぎりでいいね?」
 できるだけ早く作って届けようと思ってそう言うと、とたんに昇平が不満そうな声になった。
「えー、おにぎりだけー? おかずも作ってよー」
 ……余裕だね、アンタ。お弁当を忘れたのにショックを受けて、一刻も早く届けてほしいと考えているのかと思ったのに。
「それだと、お弁当届けるのが一時間目になってからになるかもしれないけど、いい?」
「おにぎりだけじゃなく、おかずもほしいよー。お弁当作ってきてよー!」
「わかったわかった。じゃあ、おにぎりとおかずと作って届けてあげるからね。心配しないで待ってなさいね」
「うん」
 電話が切れた。

 というわけで、家に帰る途中、コンビニに回って冷凍唐揚げなど購入して、後は朝食のおかずの残りなどをぱっぱと弁当箱に詰めて、おにぎりを握って学校に届けた。学校は朝の会の最中で、全体的に静かだった。
 ゆめがおか2組をのぞくと、昇平は特に焦っている様子もなく教室にいた。私を見るなり飛んできて、弁当袋を受け取る。
「うっかりしていてすみませんでしたー」
 とドウ子先生に謝ると、ドウ子先生が笑って言った。
「でも、昇平くん、『もう電話したから』って言って落ちついてましたから」
 どうやら、お弁当がないと気がついたのは、まだ先生方が教室に来ていない時間帯だったらしい。思うに、昇平の次くらいに登校してくるL子ちゃんが、「今日はお弁当だよ」と教えてくれたか、L子ちゃんがお弁当を持っているのを見たかして、自分が忘れたことに気がつき、すぐに公衆電話まで飛んでいったのだろう。先生方が到着したときには、すでに母と連絡がついていたので、落ちついて報告して待っていられた……ということのようだった。

 これにはドウ子先生も私もびっくり。 以前、図工の材料を忘れたと思いこんで、自分から母に電話をかけたことがあったけれど(→ 「今朝のエピソード二題」 )、その時の経験が今回に生かされたわけだ。しかも、昇平は一度電話がつながらなかったので、2分ほど待ってから、またかけ直しをしている。途中まで自力下校するために始めた公衆電話だったけれど、すっかりやり方を覚えただけでなく、適切な使い方まで思いつくようになったわけだ。
「なんかすごいですね〜。実際、何が起こるかわからないのが世の中ですからね。こんなふうに、困ったときにお母さんに電話をかけられるようになったってのは、すごいことですよ」
 とドウ子先生はしきりに感心していた。
「あんまり毎回毎回完璧に準備してあげるより、時々、こんなふうに忘れたりした方がいいかもしれませんね〜」
 とまで言われた。

 家に帰ってからその話を義母に報告したら、義母も笑いながら言った。
「ちょっとした忘れ物なら学校で先生が何とかしてくれちゃうだろうから、たまにこんなふうに、大変な忘れ物をするといいかもね。昇平くんが大人になるわ」
 あははははぁ〜。私が忘れっぽいことが、災い転じて福となった? 余り完璧すぎる母よりも、少し抜けているくらいの方が、子どもはしっかりしてくるってことかしら。
 でも、やっぱり、月間予定表くらいはちゃんと覚えておかなくちゃね。次のお弁当は22日の水曜日かぁ。これは忘れないようにしないと。
 それとも、前日に昇平に言われるかしら。
「お母さん、明日はお弁当だからね。今度は絶対に忘れないでね」
 うーん……何だか、本当に言われそうな予感がするな。(笑)

[06/11/08(水) 20:18] 学校 発達障害

[表紙][2006年リスト][もどる][すすむ]